【74】緊張することは大事なこと
保護者面談にて、3年生Kちゃんのお母さまがわが子の緊張についてお話しされていました。
「大会や検定の前、Kはすごく緊張しています。算数大会(小学生コースの特別授業)に行く道中、『3年生になったからしっかりしなきゃ!』という思いがあったようで、すごく緊張していたんです。でも、帰って来たら『やっぱり楽しかったー!』と言っていました。他の習い事でも、緊張をし過ぎて引き返して来たことがあって。今度のHIT(小学生コースで行うテスト)も心配です…」
このお話しを受けて、「私自身はどのようにして緊張というもの克服したのだろう?」と考えた結果、ある出来事を思い出しました。
ウロウロ、モジモジ…。小学4年生の私は、たい焼き屋さんの前を右往左往していました。1人で商品を買うことに緊張していたのです。500円玉を握りしめ、心の中ではずっと「これください!」と呟いて練習していました。「よし、言おう!…やっぱりやめた」「いや、今だ!…まだ勇気が出ない」何十回もこれを繰り返した後にようやく口に出せた「これください!」は、思っていたよりも難しいことではなかったように感じられました。
同じように、Kちゃんにも「緊張したけれど、やってみたら意外と平気だった!」と感じられる経験を積んでほしいと思いました。
そして、HIT当日。私は開始前に子どもたちへ「緊張する人?」という質問を投げかけました。すると、どの教室でも半分くらいの子が手を挙げます。
そのとき、私の頭には以前読んだ小説の一部が思い浮かびました。小学4年生の女の子が舞台のオーディションを受けている場面。「なぜ舞台をやりたいと思ったの?」という質問に対する彼女の返答です。
それは、緊張するからです。人見知りを直したいという意味じゃありません。緊張するってことは、それがあたしにとって大事なことなんだなって思うんです。その時間はどきどきして、いつも学校や家で感じている時間とは全然違って、三倍くらいの長さに思えます。こんなに緊張するってことは、これからあたしがやろうとすることはあたしにとって大事なんだって思うから。大事なことは大事にしなきゃって…(恩田陸「ドミノ」より)
私はこの小説に倣って、緊張する!と手を挙げた子どもたちに向けて、「緊張するということは、それは自分にとって大事なものなんだよ」と伝えました。
緊張している間にも、子どもたちの心の中はグルグルと色々なものが駆け巡っています。たい焼き屋さんの前にいた私のように。緊張には、「できなかったらどうしよう」という気持ちが多く含まれているのでしょう。つまり、緊張とは「良い結果を出したい!」「頑張りたい!」という意欲があるからこその感情だということです。自分にとって大事なことだと分かっているからこそ、それに向き合いたくて緊張しているのです。その子自身の中に勇気が芽生えるまで、大人が待ってあげることが大切です。「やるぞ!」となった時に全力で応援することができれば、あとは自力で頑張れるのが子どもたちです。
全てのテストを終え、私はKちゃんに「どうだった?」と尋ねました。するとKちゃんはホッとした表情で「楽しかった!」と言い、笑顔を見せて帰って行きました。今後も子どもたちの感情に寄り添い、サポートし続けてまいります。