【72】真剣
今年の夏、私はサマースクールでサムライの国に軍師として常駐しておりました。すべて合わせて7泊8日のサムライの国。そこには数多くのドラマがありました。
3泊4日のサムライの国に参加してくれた4年生Y君。坊主頭に笑顔がよく似合います。
「頭のさわり心地いいね!」と撫でていると、
「そうでしょ!」とその場でくるくると回り始め、手のひらがくすぐったかったです。そんなユーモアあふれる男の子でした。
今回のサムライには“子ども大将”という制度が導入されました。普段は宿の責任者が大将の役目を担っており、その大将の紙風船を割られてしまうと他全員が生き残っていても負けになってしまう責任重大な立場。それを子どもに任せるというものです。1日目の子ども大将戦。募集をかけると勇気を持って手を挙げる子どもたち。そのなかにY君もおり、“目力がいい”という理由で見事抜擢されました。
Y君を大将に据えた合戦は熾烈を極め、どこの宿も敵の大将まで一歩届かず。もつれにもつれ決着は大将同士の一騎打ちで決めることに。3宿の代表が合戦場中央に集います。大将の肩には50人の仲間たちの思いがのしかかります。その重圧に涙を見せたY君。
「…こわい。こわいよ。」とこぼしました。
「そうだな。Y君がやりたいようにやればいいんだ。思いっきりぶつかってくればいい。負けたって責める人は一人もいないから。」
それでも涙の止まらないY君。
「こわいよな。やめるか?」と声をかけると
「……行くよ。行きたい。」と袖で涙をぬぐいました。やはりいい目をしています。
大将戦では一歩も引かず果敢に攻め立てるY君。さっきまでの弱気を全く感じさせません。それでも最初に敗れたのはY君でした。先ほどとは違う涙がこみ上げてきます。
「こわかったよな!すごいよ!!」
「おれだったらいけないよ。」
「がんばってた!よくやったよ。」
自陣に戻ると50人の仲間たちが次々に声をかけます。その言葉にまた熱いものがこみ上げてくるY君。その姿は宿で笑いを振りまく坊主頭の陽気な男の子ではなく、真剣に戦いぬいた一人のサムライでした。
2日目には“天下一武道会”を行いました。通常、サムライは各宿約50人が1つのチームとしてぶつかる大規模なものです。しかし天下一武道会は自分たちの宿の中で1番強いサムライは誰かを決めるというものでした。
1班7人いれば、その7人が戦い1番を決めます。それを6班あれば6回繰り返し、最終的に各班の代表同士で戦って宿の中で最強のサムライを決めます。
「最初に負けた子は手持無沙汰になるかな」私はそんなことを考えていましたが、そんな考えは子どもたちの熱に一蹴されます。さながら剣道の全国大会のような熱気と空気の重さでした。「ハァッ!」という声と「ブンッ」と刀が空気を切る音、そして「パンッ」と紙風船が破裂する音、「キュッキュ…ダン」という足音だけが体育館にこだましていました。
そのなかでもやはりY君の気迫はまさに鬼気迫るものがありました。班の代表を決める戦い。Y君の刀捌きは神がかっていました。
「キェエエエエエエエ」高らかに声をあげたY君が刀を「ブンッ」と振ると「パンッ」と紙風船が割れる音が響きます。それが3度続きました。驚愕すべきは無駄振りが一度もないこと。一度刀を振れば、一人倒します。本来簡単に紙風船を割ることはできません。Y君の目からは“二度と負けない”という煮えたぎるような執念を感じました。破竹の勢いで班代表を勝ち取っていました。
「ここまで真剣になれるものか」と子どもたちの姿に驚かされました。Y君をはじめ、誰しもが刀を手に持つと、相手と真剣に向き合っていました。サムライという非日常の空間が子どもたちの本質を浮き上がらせます。
頼れる親元を離れ、戦い、成長していきます。それが野外体験の魅力です。ぜひ雪国スクールにもお越しください。お待ちしております。