【71】田中パジヤマ
「田中パジヤマって名前の人、日本に一人くらいはいそうだよね」
これは小学2年生のTくんが、お風呂上りにパジャマに着替えている最中に言った一言です。隣にいたお母さんは、どのように返事をすればよいのか頭を抱えてしまったそうです。
さらにTくんは「将来、僕が誰かと結婚をして子どもが生まれたら、田中パジヤマって名前を付けるんだ!」と豪語した姿を見て、お母さんはまたまたどうしたら良いのかわからなくなってしまったとのこと…
このエピソードを聞いた私は、「Tくんはこのピュアな疑問を持ったまま大人になってほしいなぁ」と思いました。
「ピュアな大人なんているのだろうか?」と考えいると、私の頭の中に服職人のKさんが登場しました。Kさんは服職人の中でも、“未来の古着を作る服職人”です。「しっかりとした生地やパターンで作られた服は、ボロボロになっても捨てられない。縫って着ていくうちに、それが服自体のデザインへと進化していく。そして誰かの手に渡り、その誰かもまた同じように縫って着ていくことだろう。デザインがどんどん進化を続けていく。20年後、その服と出会ったとき、私は声も出せないくらい感動するだろう。」とKさんは言います。
なぜ、Kさんが私の頭の中に登場したのかというと、彼はよく「私にはピュアなんて部分はありません。むしろ全部真っ黒ですよ。」 と、よく冗談交じりに口にしているのですが、その姿が私の目にはとてもピュアに映ったからだと思います。Kさんの作る服はとにかくカッコよく、他の服とは違う、どこかユニークなデザインが多く施されています。また、Kさんはお客さんが服を手に取ったときに驚く表情を見ることが、一番の仕事のやりがいだと仰っていました。そんなKさんはお会いするたびに色々なことについて、頭を抱えて悩まれているのですが、つい先日お話しした時に、「やっと長いトンネルから出ることができました。50年かかりました。」と伝えてくれました。長いトンネルから脱出できたお話を伺うと、きっかけは7歳の男の子が描いた絵と、その色を見た時に、Kさんは自分をやっと見つけられたとのことです。
私もその絵を拝見したのですが、そこに描かれていたコウモリの両翼は不均等で、色もはみ出ているけれど、とても暖かくて、誰かに褒められるように描いているのではなく、7歳の男の子が見たままの世界が描かれていました。誰かに認められたり、褒められたいから〇〇をする。これも私は素晴らしい動機だと思います。しかし、このバイアスがなくなったときに初めて、その人らしさが出てくるのではないかと同時に思いました。「良い意味で他人を気にしない」ということが人を感動させたり、新しい価値観を吹き込むということを確信しました。しかし、他人からの評価を気にせずに生きていくことは子どもにとっても、大人にとっても正直難しいことです。勉強においても、スポーツにおいても「誰かに認められたい」という気持ちはどこかで必ず意識してしまうもので、認められると嬉しく感じるのが人間で…と私の中の悩みの種は大きくなるばかりです。
花まる教室で音読を行っているときも、私と目が合うと急に声が大きくなる子がいます。私はとても複雑な気持ちになります。大きな声で読むことは素晴らしいことですが、私に認められるために大きな声で読んでくれているならば、バイアスを子ども達にかけてしまっている根源は私です。
「誰かに認められたい!」だけが先行しないよう、花まるの授業を通じて、”楽しむ”ことの本質を追求していきます。