【60】それは、ダメなことですか?
「小学生の頃、先生が厳しくてなかなか意見を言えませんでした。実は、それが今も尾を引いており、自分の考えを表現することに抵抗があります。」先日、大学生Aさんからこんな話を打ち明けてもらったのです。考えや気持ちを言いづらくなることが今も続いていることに、私は心苦しくなりました。その一方で、そんな胸の内を話せるAさんは素晴らしい。そう思い、私が感じているAさんの魅力を伝えました。表情がだんだん変わっていくAさんを見て、Bちゃんの顔が浮かびました。
Bちゃんは、4年前、私の教室に入会してきた6年生です。お母さんからは「Bには自信を持ってほしい」と聞いていました。初めて会った際、感じたのは、とにかく大人しいという印象。初回授業は、国語・算数と序盤から順調に進んでいました。ただ、算数の間違えた問題を解き直しする場面で、Bちゃんの表情が一変したのです。鉛筆が止まり、ポロポロと流れる涙。横につき色々と声をかけつつ、その一問については、なんとか正解できました。そして、授業後、お母さんに電話し、Bちゃんの涙の背景を聞いてみたのです。すると、「1年生の頃の担任の先生が厳しくて、今も、間違えることへの怖さと自信のなさがあるみたいなのです。」そう教えてくださいました。そこで私にできることはないかと考え、お母さんに「Bちゃんの好きなことは何ですか?」と聞いてみたのです。「読書ですかね・・・。」そこで、教室でやっている読書ラリーについてお伝えしました。すると、「じゃあ、連絡帳に読んだページ数を次回書いてきますね!」とお母さん。
翌週、私は、教室の元気な男の子達に、「Bちゃんの読書ラリーを発表するから盛り上げてね!」とお願いしました。クラスの皆から大々的に表彰されたBちゃん。その日から様子が変わっていったのです。さらなる本の虫になっていきました。次の週、一週間で千ページ以上読んできて、またまた表彰。ついには、ライフスタイルさえも変わっていきました。お母さんよりも早起きするようになっていったのです。その理由は、やはり読書。なんと朝に全ての宿題を終わらせて、学校から帰ってくると、おばあちゃん家に行き、「本を買って」とお願いするのが日課になっていったのです。
Bちゃんの読書ラリー表彰はすっかり恒例となりました。そして、読書という自分自身の強みに光をあててくれた仲間や先生の前で、Bちゃんは「わからない」がだんだん言えるようになっていったのです。やがて間違えを恐れなくなったBちゃんは、学校でも成績が良くなり、算数のクラスも上がりました。
変化は、それだけではありません。大人しいと思っていたBちゃんが、体育祭の応援団に立候補し見事やりきったのです。さらに、代表委員にもなり、挨拶活動も毎朝続けていました。気づけば、周りの元気な男の子達とも、自分からコミュニケーションするようにもなっていったのです。
やがて、三学期の花まる最後の授業日。Bちゃんは、「私の夢」という題名で作文を書いてくれました。そこには、力強い字でこう書かれてあったのです。
「将来、私は絶対に花まるの先生になります。」
あれから早4年。先日、Bちゃんのお母さんと久々にお話しました。見事、行きたい高校に入学したBちゃんは目標である大学進学に向けて今も頑張っています。Bちゃんがどんな進路を選ぼうが100%応援すると決めている私ですが、Bちゃんと一緒に働ける日がくるかもしれないというのは、大きな楽しみです。
子ども達は、大きくなるまでに何人の大人と信頼関係を築けるのでしょうか?大勢いる子は稀だと思います。だからこそ、子ども達にとって、どんな大人と出会うかが大切です。その大人の一人として、子ども達が持つ未来の可能性を伸ばしたい。そんな想いで、私は花まるの先生をやっています。人は一生学び続ける存在です。子ども達には、自分の間違えにOKを出せる人になってほしい。それがダメなことではないと知った途端、可能性という芽から実に色とりどりの花が咲き始めることでしょう。その為に、これからも子ども達と向き合ってまいります。