【56】真似から発見、そしてその先へ

 モノを使った実験が大好きで、思考実験の時には毎回、目を輝かせて取り組む年中のAくん。今回の思考実験は「はさみ②」。折り紙を折って、切って、開き、その時の形の対称性を楽しむ実験です。子どもたちの前で三角に2回折って、切る様子を見せ、開いたらどうなるかのクイズを出しました。すると

「新幹線!」「三角!」

とAくんをはじめ、子どもたちは思い思いに予想を楽しみます。
 開いたときにできた形を見て、やる気になった子どもたち。「いい姿勢の子から折り紙を渡します」と伝えると、皆ピシッと背筋を伸ばして待ちます。折り紙を渡すと我先にと始める子どもたち。そんな中、Aくんが困った様子で手を止めていたのです。

「どうすればいいか、分からない」

 折り方が分からなくなっていた様子。ただ、彼の手元を見ると、三角に折ることができていました。もう一回折ることを伝えると、何とか折ることができたAくん。これでスタートラインに立てました。その間、他の子たちは作品を完成させ、「できた!」「見て!」の声の嵐。一人ひとり見て回り、時にはみんなの前で作品を発表し、称賛される経験をさせたり、真似してみたい気持ちにさせたりすることなどをしていました。すると、その時、ひときわ大きい声が聞こえました。

「先生、見て!」

 声の方を見るとAくんです。
 彼の手元には、端を切って、開いた折り紙がありました。それを誇らしげに見せていたのです。自分で作って、発見したことを見せたい気持ちがあふれていました。
 これをきっかけに、一気に気持ちものっていくかと思い、次の紙を渡した後です。また彼から

「どう、折るんだっけ?」

と困った表情での訴え。「好きに折っていいよ」と伝えようかとも思ったのですが、彼がもう一度同じ折り方で進めたいと考えていたようなので、折り方を再度伝えました。
 彼の元を離れて、また他の子たちを見ている時に「見て!」の声が聞こえました。もちろんAくんです。彼が作った作品は、中に穴が空き、外側は少し丸みを帯びて、4方向に対称性を持った形でした。その作品を見せる彼の表情は誇らしげで、最初の折れなかった不安はどこかに吹き飛んだようにも見えたのです。
 次の折り紙を渡すと、1回三角に折ったあと、手を止めて、ふと考える表情を見せ、
「こういう風に折ってもいい?」
と尋ねてきました。オリジナルの折り方を彼なりに発見したのです。自分で考えたことを大事にしたかったため、もちろん承認しました。その後の彼は最後まで止まることなく作品を作り続け、最終的には

「今日もたのしかった!」

と満足気に帰っていきました。

 最初こそは形通りに作ろうとしていたAくん。正解にこだわっているのかもしれないと思っていました。ただ、自分で形を生み出す楽しさを知ったからこそ、次は新しい方法を試してみようとし、創造の枠を広げていったのです。「やり方を聴く=正解にとらわれている」と一概に考えるのではなく、最初は真似からでもやってみることで、発見する喜びを見つけ、そこから発想を広げていける。そのことを彼から改めて教えてもらいました。
 年中クラスの思考実験は様々な発見にあふれています。ただ、その発見は年中クラスにとどまりません。それぞれの成長段階ごとまた別の気づきの瞬間があり、そこから新たな発想につながっていきます。教室でも、ご家庭でも、子どもたちが発想を広げていける発見ができるといいですね。

 

まえへ  つぎへ