【55】まっすぐな瞳

 先日、兄から「友人の息子(Aくん)の進路相談に乗ってほしい」と連絡があり、そのAくんと会ってきました。
Aくんは、高校受験真っ只中の中学3年生。彼が小学4年生の頃に一緒にサッカーをしたことがあったので、約6年ぶりの再会です。

 サッカーを幼い頃から続けてきたAくんは、サッカーの強豪校に入り、厳しい環境の中でプロサッカー選手を目指して頑張るか、はたまた強豪校ではない学校で高校生活をenjoyするか、どちらかひとつの道を選ぶことができないようでした。

 学校生活のことやサッカーのこと、友達や恋人の話など、いろいろな話をしていると、今のAくんが何を大切にしているのか、そして何に迷っているのかがだんだんと見えてきました。
というのも、私と彼は境遇が似ており、中学生の頃の私が悩んでいたことと、今のAくんの悩みが一緒だったのです。
それは今を楽しめていないことへの葛藤です。
受験勉強や、サッカーの練習で毎日が終わってしまうAくんには、友達と遊ぶ時間はありません。
「周りの友達はこんなに楽しんでいるのに、自分だけ楽しめていない…。未来のために頑張っているけど、今が楽しめなければ意味がないじゃん。」
将来のための受験勉強やサッカーの練習も大切だけど、友達との時間も同じぐらい大切。
中学生の頃に同じ悩みを持っていた私にとって、その気持ちは痛いほどわかります。

 私はそんなAくんに、私の人生で唯一の後悔を伝えました。

 

 それは、大学時代に目の前の辛いことから目を背け、今を楽しむことを選択してしまったことです。
もちろん、今を『楽しむ』ことは大切です。でもその時の私は今を楽しむというより、今を『ラク』しようとしていました。
 当時の私はプロサッカー選手を目指していたこともあり、在学していた大学の部活動は生半可なものではありませんでした。そんな辛い練習から逃げ出すために、「今楽しめればいいじゃん」 と自分を正当化し、部活をサボって友達と遊んでしまっていたのです。

 『楽しむ』ということと、『楽する』ということは、同じ字でも全く意味が異なります。
 私は『ラク』を選択してしまったことを、大学卒業後も数年間、後悔し続けていました。
 中学生のAくんに対して、今を楽しみたいのか、それとも楽をしたいのかを問うのは少し酷かもしれません。
それでもAくんに後悔だけはしてほしくないと思い、誠心誠意、私の思いを彼にぶつけました。
2時間ほど話をして、帰る際にAくんが「今日は本当にありがとうございました。もう一度、今の自分にとって何が大切なのかを考えてみます!」とまっすぐな瞳で伝えてくれました。

 子どもでも、大人でも、自分はどういう人間なのだろうと迷ったり、自分と周りを比べてイライラしたり、自分というものが確立できずに悩むことはあると思います。
 それでも目を背けずに、今に向き合うことの大切さを、彼のまっすぐな瞳から教えてもらいました。

 

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