【51】協力して学ぶことの価値
『まず、自分でできることは自分で頑張る。その上で、できないところは力を合わせる』
特別授業「算数大会」の冒頭で、「協力するってどうすることかな?」という私の質問に対し、1年生Sくんが返してきた言葉です。「協力して取り組んでいいよ」と聞いて他力本願に舵を切るのではなく、自分なりに頑張ってみてほしい。そういったことを私から一方的に伝えるのではなく、子どもたちの中から出てくることを期待し、投げかけた質問に対するSくんからの回答。まさか1年生からこの言葉が出てくるとは思ってもみなかったので驚きました。「協力して取り組んで良い」という言葉が安心や希望になりつつ、Sくんが言った「自分でできることは自分で頑張る」という言葉が子どもたちには響いたようです。自分の力でまず頑張ってみようという、程よい緊張感が漂う中で算数大会がスタートしました。
3年生Tくんは、1年生Aちゃんと席が隣でした。普段は、まわりの人と積極的に関わるというより自分の世界の中でひとり楽しむタイプのTくんですが、この日は違いました。算数大会に参加すること自体が初めてのAちゃんは、わからないことが多くどこか不安げ。そんな彼女を気にかけ、手が止まったり、困ったりした様子があれば一緒に考えるTくんの姿を何度も目にしました。大会中盤でのこと。「ゲームの切り替え時、聞く姿勢を整えるまでがとても早い」という理由でAちゃんが表彰されました。Aちゃんはもちろんですが、このことを誰よりも喜んでいたのは隣に座るTくんでした。まるで自分のことのように喜び、拍手をし、「よかったね!」とAちゃんに声をかけるTくんを見て、胸が熱くなりました。
他のチームの様子を見てみます。3年生Aちゃんは、高い空間認識力とチャレンジ精神の持ち主で、難易度が上がれば上がるほどやる気に火がつく子です。『ちょっきん!どんな形』という、折って切って開いた折り紙の形を考えるゲームでのこと。Aちゃんの新たな一面を目にしました。隣に座る1年生Hちゃんが、なかなか解けずに困っていることに気付いたAちゃん。自分の手を止めると、Hちゃんにヒントを出し始めたのです。「ここが真ん中でしょ。で、ここをこうやって切ったら、開いた時にこんな感じになっていると思うんだよね~」と伝えながらHちゃんのプリントに薄く鉛筆で書き込み、イメージの足掛かりを作ってあげていました。その後、Aちゃんは「そうか!そしたら私の答えはこうじゃなくなる!」と途中で自分の解答が違うことに気付きました。Hちゃんに教えながら、自分の中で理解がさらに深まったのでしょう。それにしても、答えを教えない、段階的なヒント出し。講師顔負けの見事なリードでサポートするAちゃんに成長を感じました。
最後に、2年生Mちゃんを紹介します。物静かなタイプのMちゃんは、普段の授業でも自ら発言することはあまりなく、聞かれれば小さな声で答える子です。そんなMちゃんの隣に座るのが1年生Tくん。『そろえて、けして、あたまの中で』というテトリスの要領で進めていくゲームで、Tくんはなかなか揃うところを見つけられずに苦戦していました。その様子に気付いたMちゃんは心配そうにTくんを見つめ、何かできないか考えているようでした。「ここが揃うよ」と鉛筆で書きながら教えようと手を伸ばしたり、その手を引っ込めたり。戸惑いながらも、勇気を出して一歩を踏み出そうとしているMちゃんに、「頑張れ!」と心の中でエールを送りました。Tくんに教えることはできずにゲームは終わりましたが、行動を起こそうとしたMちゃんに「Tを気にかけてくれてありがとうね」と伝えました。
異学年混合で学ぶ学習環境では、様々な化学反応が起こります。一人より二人で取り組むことで、喜びがさらに大きくなること。人に教えることで、教える側の理解もさらに深まること。勇気を出して一歩を踏み出そうとすること。一方的に私たちが教えるだけでなく、子ども同士が手をとり合い、協力して学ぶ環境作りをこれからも作ってまいります。