【49】勇者は心の中に
今年の夏休み、私はサマースクールのサムライ合戦全国大会に参加してきました。集結したのは、連勝を続ける関東軍・チームワーク抜群の関西軍・親子で一致団結した現地の唐津軍・そして我らが中京軍の4軍。それぞれが全国統一という祈願を胸に2日間に渡って戦いを繰り広げました。
サムライ合戦は各々が太腿に1つ紙風船をつけ、それを刀で割られたら退場となります。またチームに1人大将がおり、その人の紙風船が割られたらその時点で軍の敗北となります。自分の紙風船を守りそして大将も守りながら、敵の大将を討ち取るのです。やはり敵の大将に立ち向かった者、戦略を練って指揮した者、より多くの敵を倒した者に注目が集まります。しかし今回はあえて少し視点を変えてある1人の男の子を紹介します。
3年生になった彼は今回が初めてのサマースクール、そして初めてのサムライ合戦でした。初日は右も左も分からず緊張した面持ちで合戦場に立っていました。敵の迫力や場の雰囲気に呑まれ「怖い。」と呟くこともあり、初日はすっかり腰が引けてしまっている様子。ホテルに戻りチームメイトとの友好を深めたり、翌日の作戦会議をしたりする中で少しずつ雰囲気を掴んでいったのでしょう。
2日目が始まると一戦一戦重ねるごとに「1人倒せたよ!」と話すことが多くなり、攻めに転じることが増えていました。彼の闘志が高まってきた頃に行ったある一戦で、中京軍が数人の唐津軍から突撃される場面がありました。中京軍は慌てて大将を中心に守りを固めます。しかし彼の少し前で数人の敵に囲まれてしまった仲間が1人。流石に倒されてしまうかと思ったその時、同じくその状況に気が付いた彼がパッと仲間のもとに駆け寄ったのです。「大丈夫?」と声をかけながら近づいていき孤立していた仲間の隣に立って敵の侵略を食い止めていました。その場面、相手を倒すことこそできなかったものの、敵を退け2人とも倒されることなく自陣まで戻っていきました。
攻め込まれている時に前へ一歩踏み出すには途轍もなく勇気が必要です。まして敵に囲まれている仲間の場所へ1人で向かうのですから自分自身もやられてしまう可能性が大いにあります。不利な状況の時ほど“倒されたくない”という気持ちが勝って仲間の窮地に気付いていても動けない子も多いですが、まるで助けることが当たり前のように動き出した彼の姿は本当に格好良く頼もしいものでした。
強襲をかけて勢いがあり、さらには自分の何倍も体格のいい大人もいる唐津軍。そのような不利な状況で自分を顧みず動ける人が果たしてどのくらいいるでしょうか?自分の身を守るために私は躊躇してしまうかもしれません。追い込まれた状況では本来の姿が見え隠れします。彼のような本心からの勇気や優しさから生まれる行動は、見た者の心をぐっと掴みます。助けられた仲間や近くにいた仲間たちは、彼の姿を見て何を感じたのでしょう。見る者の心を掴む行動をしたのは、きっと私が見た彼だけでないはずです。そこで生まれた小さな尊敬や憧れの気持ちは、見た人の中で芽となり新たな道しるべとなるのではないでしょうか。