【39】「できない!」の一歩先にあるもの

 二年生のYちゃんが、帰りの挨拶の後にお父さんの横でシクシクと泣いています。最難関の思考力問題が載っている「レインボータイム」の最後の一問ができなかったようです。
 Yちゃんが帰った後の机をみると、まるで世界地図が描けそうなくらいの消しカスの山。実は、大人でも苦戦する問題です。それに果敢に挑戦し「できなかった!」と涙するその姿が、私には光り輝いて見えました。

 また別の日、一年生のRくんは、花まる漢字テストが「できる気マンマン!」とニッコニコ。
 しかし、テストの終盤、「この文字がわからない!」と心の底からの声。残り十秒でも決して諦めませんでしたが、終了の合図とともに静かに涙を流していました。
 少しだけ恥ずかしそうにしているRくんでしたが、本当にかっこいい涙だったと思います。

 二人とも、「本気」でした。「本気」だったからこそ、悔しくてたまらなかったのだなと思います。

 私は先日、花まる子ども冒険島に、開拓のお手伝いに行ってきました。キャンプには慣れているはずの私ですが、その日の夜、ドラム缶風呂の火がなかなか上手く燃え広がらず困っていました。
 汚れながら薪を割り続け、火に入れます。「もうお風呂に入ることができないかもしれない…」何度も諦めそうになりながら、もうひと踏ん張りしたその瞬間、ボワッと目の前が一気に明るくなりました。
 その時の嬉しさと言ったら、もう忘れられません。

 子どもたちも毎週の授業で、こんな喜びを感じているのだと思います。「できない…」と思った直後、自分で手にした達成感というのは格別なものです。

 私の幼い頃を思い返せば、初めて自転車に乗れた瞬間も、初めて泳げた瞬間も「もう無理だよ…」のすぐ一歩先にありました。
 そのときの気持ちは、「できた!」というより「できちゃったよ…!」に近かった気がします。
 そして、そのとき近くには必ず、優しく私を導いてくれた大人がいました。当時は、厳しく見えたかもしれませんが、心から温かく、きっと私のことを「信じてくれていた」のだと思います。

 「〇〇、ここまで来い!できる!」
 「諦めるな!〇〇ならできる!」

 花まるの教室は、子どもたちの挑戦を最後まで応援する場所です。
 「自分はできるはず!」と突き進める子にとっては、安心して何度でも失敗できる場所。
 「できないよ…」という子にとっては、背中を押せる場所でありたい。そう思っています。

 子どもたち自身が、自分を信じることがまだできなくても、私は子どもたちを信じています。
 それが伝わり勇気となり、その先の一歩を踏み出してほしいと願っています。

 「先生、レインボーできたよ!」

 次の週、Yちゃんがプリントをお家で最後まで解ききって持ってきてくれました。
 何度も消して書き直して開いたその穴は、Yちゃんの勲章そのものです。
 採点をすると、なんと見事大正解!大きく花まるを付けました。
 これからもその諦めない気持ちを大切にしてほしいという願いを込めて。

 

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