【31】『おむつよ』
長かった夏休みもあっという間に終わり、新学期が開始しました。保護者の皆様にとって今年はどのような夏でしたでしょうか?教室では子どもたちが我先にと夏の思い出を報告してくれます。それを聞くのが私にとっての楽しみでもあります。
さて、私は専ら花まるグループの野外体験『サマースクール』に引率リーダーとして参加していました。教室では「○○先生」ですが、野外の現場では「○○」というニックネームで呼ばれます。サマースクールは活動内容によって様々なコースがあり、対象学年も年長、1年生~、4年生~などと決まっています。かの有名な無人島コースは6年生以上が対象でした。
私が今年最も多く参加したのは『ドキドキ年長王国』というコースです。小学生からは異学年混合の縦割り班が通常ですが、年長コースは年長の子たちだけ。宿泊日数も一泊二日と短く設定されています。「今日の朝に行って、明日の昼過ぎには帰る」言葉にするとそれだけですが、そこには小学生たちに負けず劣らず無数のドラマがありました。特に今年はコロナ禍の影響もあってか、「お泊まりが初めて」という子の割合が多かったようにも感じました。お泊まりが初めてなら布団にシーツをかけるのも初めて。割り箸を割る、お風呂で頭を洗うなど、とにかく子どもたちには「初体験」の連続です。川遊び、魚つかみ、虫採り、キャンプファイヤー、花火といったキャンプならではの野外活動に胸を膨らませて来る子どもたちですが、宿内でも数々の挑戦が待っているのです。そういった壁を、班のリーダーにサポートしてもらいつつ乗り越えていきます。こういった経験がが「できた!」という自信にも繋がります。
過去のコラムにも書かせていただきましたが、特に印象深いのは「おかわり」の機会。現在は手指消毒をした大人が行っていますが、以前はご飯のおかわりも立派な経験ということで、子ども自身で行っていました。ある男の子も炊飯ジャーの重い蓋を両手で開け、しゃもじを握ります。お釜の中から粘りのあるご飯を掬うのは意外と力がいるようで、グッと力を込めます。するとピョーンと宙を舞うライス。床にこぼしてしまったお米はリーダーと一緒に片付けをします。こうしてようやく手にした銀シャリを誇らしげに食べていました。「お家に帰ったら、家族みんなのご飯は僕が入れるんだ」と彼は言っていました。
就寝時間が近づいてきた頃。部屋を見回りしていると男性リーダーから助けを求められました。そばにいるのは上半身パジャマ、下半身パンツ姿の男の子。その姿を見ておもらしかな?と直感しましたが、そうではありませんでした。リーダーから話を聞くと、
「A君がおむつを穿きたくない、パンツのまま寝たいと言っています。どうしましょう…?」
とのことでした。就寝時におむつを穿く子は事前に保護者の方から申し受けており、我々にとっては守らなければならない「約束」です。しかしA君の気持ちを考えると、無下にはしたくないものです。「パンツのまま寝たい」という彼の発言は成長であり挑戦に他ならないからです。「(実際にはそんなことはないのですが)僕以外の子はおむつを穿かずに寝ている、だから僕も卒業するんだ…!」
だから班リーダーも私も悩みました、A君の希望を尊重するか、保護者との約束を優先するべきか。悩んだ上で、
「Aの勇気伝わったよ、絶対に忘れない。今日を『おむつ最後の日』にしよう。お家に帰ったら明日からは卒業だ。Aと○○との約束。」
おむつが保護者との約束であることも含めてこう伝えると、A君は深く頷いてくれました。別室へ移動し、穿き替えます。何か心に響くところがあったのか、彼の目には涙が溜まっていました。私もあとでこっそり泣きました。
おむつ一枚、お茶碗一杯、バッタ一匹、ラムネ一個にも隠れたドラマがあり、成長があるのが花まるの野外体験。次回の雪国スクールが今から待ち遠しいです。