【28】一歩のその先に

 花まる学習会の夏は、サマースクールという野外体験の大イベントがあります。大自然の中へ行き、森や川の中で遊んだりしますが、バカンスやツアーではありません。活動の準備をするときは、必要なものを自らバックから取り出し、身支度を整えます。その日初めて出会った仲間と自然の中でその場にあるものを使って工夫して楽しみ、また魚をさばくことで命の大切さを学んだりします。時には喧嘩もしますが、その中でどうしたら一緒に過ごす時間をよりよくすることができるかを、自分たちで考えます。そのような挑戦の日々を通して、サマースクールが子どもたちにとって大きく変わるきっかけになりました。

 今回、私がサマースクールで出会ったRちゃんのお話をします。森の中で木や葉っぱを使い、大きな基地を作る「秘密基地作りの国」というコースで出会った1年生のRちゃん。すごく人見知りで、バスの中ではみんなでレクリエーションをしながら現地まで向かうのですが、そんな中「ママー!」とずっと泣いていました。活動するために着替えた後、どんな基地を作りたいか作戦会議をしている時も、1人だけその輪には入ろうとしませんでした。そんな彼女ですが、作りたいものがありました。それはブランコです。どうしてもこれが作りたくてこのコースにしたことを話していました。
 宿を出発して、いざ森の中へ。基地を作り始めたころ、2年生のMちゃんが基地の横にブランコを作り始めました。私はRちゃんに、「Mがブランコを作っているよ。一緒に作ろうって言う?」と聞くと、少し恥ずかしそうに、下を向いたまま「うん」と頷きました。彼女と手を繋ぎ、Mのところへ。私は「M!Rが言いたいことがあるって!聞いてあげて!」といい、私は手を離しました。Rちゃんがなんというか、ちゃんと自分の口で言うことができるのか、見守ることにしました。そうすると「一緒につくってもいい…?」と、自分から言い出すことができました。「いいよー!」と言われ、下を向いていたRちゃんも上を向き作り始めました。2人で協力し、ブランコは無事完成!またそれだけにはとどまらず、たくさんの子どもたちからも人気を集める、ターザンロープまで完成をさせました。Rちゃんはみんなが楽しんでいる様子を、とても嬉しそうに見ていました。あの時、彼女が踏み出した一歩は、自分を乗り越える大きな成長につながりました。

 また年長のTくんは、そもそも1人でのお泊まりが初めてでした。それを不安に思っていたのは、Tくんのお母さん。Tくんは「僕、いけるよー!」とケロッとした様子でしたが、お母さんは「いけるのかな…。大丈夫なのかな…。」そう思っていました。出発の日、「泣くのかな?嫌がるかな?」という心持ちでしたが、元気いっぱいに手を振って出発していきました。次の日お迎えに行くと、満面の笑みで帰ってきたTくん。サマースクールが楽しかったようで、あった出来事を1から10まで全て話しました。私がお母さんにお会いした際に、「私からTが離れて心配していた部分がほとんどでした。しかし、どんどんやりたいことをやらせていいのだと、本人をもっと信じていいのだと思えるようになりました。」

 Rちゃんの成長もTくんのお母さんの気づきも、サマースクールに踏み出した一歩から変わるきっかけができました。今年の夏、行くことができなかった子、行ったけれど途中で帰ることになり、悔しい想いをした子もいると思います。来年は参加した子どもたち全員が楽しかったと思えるサマースクール、そして子どもたちの成長、またご家族様が気づきを得られる機会を提供できますように。

 

まえへ  つぎへ