【27】プチハッピー

 私は時々、幸せを感じる瞬間について考えるときがあります。好きな人と一緒にいるとき、おいしい食べ物を食べたとき、きれいな景色を見たとき、自分の好きなことに没頭しているとき、目標を達成したとき…。このように、普段とは少し違う特別なときに、幸せを感じることが多いのではないでしょうか。
 非日常の大きな幸せに加え、日常の中で出会う「プチハッピー」という小さな幸せを、私は大切にしています。
 例えば、デジタル時計を見たときに時間がゾロ目だった、ナンバープレートがクロッキー(黒と黄色)の車を見た、いつもひっかかる信号にひっかからなかった、ホームに着いたと同時に電車が来た、駅までの道でネコに出会えた、など本当に些細な出来事でいいのです。「そんなこと」と思えるようなことであっても、自分は「あ、ラッキー」と思うことで、日々の幸福度は向上します。
 だから私は、朝からプチハッピーに出会えると、「今日はいい日になるかも!」と気分が上がり、その日1日を上機嫌で過ごすことができます。このプチハッピーを無意識に発見している人がいます。それが子どもたちです。教室で子どもたちを見ていると、子どもたちも自分なりのプチハッピーを無意識に発見し、気分を上げているように感じます。

 私は、日々の教室で子どもたちと関わるときに、最初に意識して見るところがあります。それは、教室に入ってくるときの様子です。普段通りなのか、普段よりもテンションが高いのか低いのか、入室時には子どもたちのその日の気分がよく表れます。そして、いつもと様子が違う子は必ず何かしらの理由があります。

 年長のRくんはマイペースな男の子。教室に入って着席すると、講師に話しかけながらゆっくり丁寧に3分くらいかけて、テキストに名前を書き上げます。しかし、ある日のRくんは、入室してすぐに席に着き、自分からせっせと名前を書き始めました。いつもと違うRくんの様子を観察していると、かばんからトイレットペーパーの芯を取り出し、私に見せながら「初めて最後まで出した!」と嬉しそうに言いました。Rくんは初めてトイレットペーパーを最後まで使って芯にしたことに喜びを感じ、それを早く伝えたくて仕方がなかったのです。私たちにとっては「そんなこと」でも、Rくんにとっては「こんなこと」なのです。

 3年生のYくんは作文の題材を決めるのに悩みがちで、書き始めるまでに毎回時間を要しています。しかし、ある日のYくんは、教室に入り席に着くと同時に「作文書きたい!書いていい?」と普段の様子からは想像できないセリフを口にしました。特別授業で作文を書かない日だったのですが、Yくんがそこまで「書きたい!」と思えることはいったい何なのか、Yくんの心の中を覗いてみたくなり、作文用紙を渡しました。すると、週末に釣りに行ったことについていろいろと話をしながら書き始めました。しかし、内容は釣った魚のことではなく、海に落ちたイスを網ですくったというものでした。Yくんに詳しく聞くと、「釣りも楽しかったが、海に落ちたイスを初めて見てテンションが上がった」と意気揚々と話していました。またまた我々からしたら「そんなこと」と感じることかもしれません。しかし、Yくんにとっては「こんなこと」なのです。

 このように、子どもは一見すると、「そんなこと」と思うような些細なことでも上機嫌になり、パフォーマンスが向上します。「プチハッピー」は、ふとしたことで世界が輝いて見える魔法なのかもしれません。お子さんが「花まるの時間」は「お母さんだけの時間」です。この時間を、「お母さんのプチハッピーを作る時間」にしていただければと思います。

 

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