【17】「ごめんね」「いいよ」

 低学年クラスで行う、パターンメーカー。フラッシュカード形式で3秒だけ提示した図形を目に焼きつけて、手元の4枚のカードを並べ替えます。「ぐるぐる~」と腕を回す子どもたちから、わくわく感が伝わってきます。「ひらけ~ゴマ!」そのかけ声とともに、パッとお手本を見ると、ぐっと集中する子どもたち。カードをどのように組み合わせると同じ形が再現できるかをイメージして考え、手を動かしながら平面図形の認識能力を鍛える教材です。

 その日、みんながパターンメーカーの準備を始めたところで、2年生のH君がカバンに顔を押しつけて泣き出してしまいました。突然の涙に、てっきりパターンメーカーを忘れてしまったのだと、私も講師も思いこんでしまいました。
「泣かなくても大丈夫、次の授業で持っておいで」
 そう声をかけたものの、一向に泣き止まないH君。その後、泣き声を押し殺してH君が言ったのは、
「隣の子が…。忘れてないもん」
という一言。ふと、隣に座っていたA君のパターンメーカーを見ると、H君の名前が書いてありました。H君が出したものをA君が自分のものと勘違いして使ってしまったのか、そもそもA君が間違えてH君のカバンからパターンメーカーを取り出してしまったのか、きっかけはわかりません。手元のパターンメーカーが自分のものではないと気がついた瞬間、A君の顔に広がったのは、戸惑いの色。悪気がないことは、はっきりしていました。

 「A君が使ってしまったことで、H君は悲しくなって泣いてしまったんだ。H君も、A君も、誰も悪くない。それはよくわかっているよ。でも、自分がしたことでお友達が泣いていたら、その子の気持ちに思いを馳せて、『ごめんね』が言える人でいてほしいと先生は思うよ。どうする? 」

 そこまで伝えたとき、A君ははっとしたのでしょう。目にはみるみる涙がたまっていきました。一緒にH君のところに行こうよ、と手を取り、H君のしゃがみこんでいるところに行くと、A君までしゃがみこんで、一緒に泣き出してしまいました。
 「二人は花まるの仲間だよね。ここで二人で泣くか、解決して一緒に授業の続きをやるか。二人のタイミングでいいから、言いたいことを言って、すっきりしたら席に戻っておいで」
 と伝えました。

 それでも二人の涙は止まりません。しかし、意を決してA君が震えるかすかな声で、
「ごめんね」
と言いました。それはちゃんとH君に届いて、H君も声を震わせながら
「いいよ」
と言えました。

 席に戻ったら、泣いていたことを忘れさせるほど、いつも通りの二人になっていました。

 子ども同士の小さなトラブルは、自分たちで乗り越えていくからこそ、その子の力になります。他者とかかわり、自分とは違う気持ちや考えをもっているのだと知る。そして、ぶつかったりつまずいたりしながらも関係を築いていく。そのような経験を通して、その子のたくましさが磨かれるのだと思います。
 花まるの教室や、サマースクールなど野外体験の現場で起こる、小さなもめごと。そんなとき、「もめごとはこやし」という言葉を大切に、周りの大人は見守っています。なかには、今回のように子ども同士でうまく伝えられないことや、言葉にならないことも。ときには、まだ仲直りするための言葉を知らないこともあるでしょう。一つひとつのもめごとを乗り越える経験が、成長につながるよう、後押しできる場でありたいと思っています。

 

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