【16】眩しい光が差す夜明け
乾いた空気が頬を差す冬に、友人の小学1年生保護者Kさんから相談が入りました。「実は秋ごろから不登校気味で、ついに12月は1日も学校にいけなくて・・」そう口にするKさんの声色は重く、ストレスでかすれた声です。原因は不明、お子様のRちゃんも学校については何も話そうとせず、ただ行くのを嫌がる毎日。Rちゃんはスポーツ好きで男の子とよく遊ぶほどパワフル、新しい事柄に挑戦するのも得意で、小学校の学習も楽しんでいたはず。しかしなぜか登校を嫌がる。「最近誰かから監視されている気がして・・」とKさんのストレスも限界にきているように感じました。そこで私は平日毎朝9時からZOOMを繋ぎ、15分ほど学習や会話をする時間を設けるよう提案し、承諾を得ます。
1日目・・Rちゃんは画面になかなか出られず、Kさんだけが画面に映っています。「おはよう!」と伝えるも、「ほら!おはようだって!」「・・・・はよ」とボソボソしゃべり。もちろん顔は見えていません。それでも手をかえ品をかえ、話しかけました。Kさんがすべて間に入り、自分の口では話せない。最近はまっていることや、好きなことは何かという問いかけから、Kさんを通じていくつか出てきます。好きな宝石を持ってきて画面に手だけを出し、見せてくれました。その様子が少し変わったのは3日目。私とRちゃんがそれぞれ好きな「絵」を書いてくるという課題を通じて会話が弾むようになってきました。顔も画面に出せたのです。しかし5日目は起きてこられず、6日目は最初から堂々と画面に出られたものの、7日目は15分遅刻と試行錯誤の日々が続きます。本人が繋ぎたくないと言っても定刻には必ず通信は開始しておく約束をKさんとしました。そうした努力が続いた9日目。ついに学習に取り組みたいと、計算問題を一緒に楽しむ時間が取れたのです。こうして少しずつ活動できるようになってきました。
そのころKさんと毎日電話で話し、新年度から新しい学校に通うと決定しました。家から60分の山中にある学校でしたが、親子でそこに見学に行き、「ここなら通えるかも」とRちゃんが言ったことが決め手になったのです。Kさんも希望の光が見えたようで、「心に余裕ができてきました」と話すようになりました。その後、Rちゃんが重い口を開き、不登校の原因はRちゃんの幼稚園の友だちが小学生からは別クラスになり、冷たく接してくる態度に心が折れてしまっていたとのことにあると判明しました。それはきっと複数の原因の1つでしかないでしょう。ここでは深追いはせず、Rちゃんが「今まで言えなかったことがいえるようになってきた」という状況に喜びを感じ、次の学校での生活に焦点を当てるようにします。
話を続けて3か月。約50回の交流を行い、すっかり自信を取り戻したRちゃん、学習も進むようになりました。そして新学期を迎え、どうなることかと固唾を飲んで見守っておりましたが、なんと新しい学校に毎日通えるようになったのです。しかも「友達といられて楽しい!」と嬉しそうに話します。すっかりKさんも自信を取り戻したご様子で、「私が笑顔でいると、娘も笑顔でいてくれるんです。娘がもともと持っているパワーを信じます。」と前向きな言葉ばかりが聞けるようになりました。
誰でもつまずくときがあります。そしてすぐには起き上がれないときがあります。不登校になること自体はつまずきでもありません。無理に学校に行かそうとする必要はありません。それぞれのペースや合った場所があります。人がそれぞれに持つ個性に寄り添い、認め合いながら過ごす。色眼鏡でその子の人生を見て、無理に別の方向へ導こうとする必要はないと、この経験を通じて深く確信しました。多様な選択肢が増えている今、Rちゃんがその1つを自ら選び取り、成長をしていくたくましい姿をみて、「子どもたちは無限の力を持っているな」と強く思いました。そう思うと、窓から差す太陽の光が、いつもよりまぶしく強く感じました。