【14】子どもの背中

 猛暑も台風と共に過ぎ去り、秋を感じる日が増えてきました。今回はたくさんの子ども達と過ごした夏のお話をさせていただきます。
 お話に登場するのはKくんという男の子です。Kくんはサマースクールや雪国スクールなどの多くの野外体験に参加してきた6年生。そんな彼がサマースクールの集大成として選んだコースは、初めて参加する子が多いといわれる2泊3日のコースでした。何度もサマースクールに参加したことのあるKくんには、初心者向けのこのコースの内容では物足りないのではと思う気持ちもありました。宿に思い入れがあるのかなと想いを巡らせながら子どもたちを待っていると、しっかりとした体つきのKくんが2つのリュックを持ち集合場所に現れました。その体の大きさからは小学校最高学年の気迫を感じます。低学年の子どもたちが多い中、Kくんが楽しんで過ごせるのかという少しの心配がありましたが、その心配は不要でした。バスの中でお互いに自己紹介を済ませると、いつの間にか話が盛り上がる子どもたち。宿につき昼食を食べ終わると、数時間前に会ったばかりだということが嘘のように仲良く遊ぶ姿がありました。

 いよいよ川遊びの時間です。その日は気温が低く、雨がぱらつく天気でした。
「寒いって言ったら寒いよね!」
「じゃあ暑い!!」「本当だ、暑い!!」
と大きな声を出し、体を動かしながら川で遊びます。川の水温も低く、川の水に浸かり続けている私の足はすでに感覚がなくなるような、そんな寒さでした。
 次々に川から上がっていく子どもたち。そんな中、Kくんだけは違いました。
「リーダー!おれ、そこまで流れていくから!」
そう大きな声を出しゴーグルをつけると、流れのある場所に座り込んだKくん。その場に仰向けに川に寝転ぶと、全身を水に浸からせ、忍者のように人差し指を立てて手を合わせたポーズのまま川を流れていきました。そんなKくんを見て「ぼくもやりたい!」と川流れにチャレンジする子がKくんの周りに集まります。その場の雰囲気が変わり始めました。その後始まった“リーダー対子どもたち”の水かけ合戦もいつしか“Kくん対子どもたち”へと変わっていきました。
「Kを倒せ!みんなもっと水をかけるんだ!」
寒さも忘れ、Kくんに水をかける子どもたち。私の班だけでなく、次第にその輪は大きくなっていき、コース全体での遊びに変わっていきました。
 Kくんは目立ってみんなを引っ張る子ではありませんでした。けれど、全体で集まったときや全体リーダーからの話があるときにはさりげなくチームの子たちに声をかけ、話を聞くように促したり、夜の探検では一番後ろであたりの安全を確認したりと、周りをよくみて自ら考え行動している子でした。Kくんのそんな行動で、チームだけではなく、コース全体がまとまっていきました。
 等身大のKくんの周りにはいつも、たくさんの友だちの姿がありました。
 最終日の解散場所。リーダー達とさよならの挨拶をした後、Kくんに近づき「またね!」とハイタッチをする子どもたちの姿も。私もKくんとハイタッチをし、その大きな背中が見えなくなるまで手を振って見送りました。

 サマースクール終了後Kくんがこのコースを選んだ理由をKくんの教室長から聞きました。
「小さい子たちのお世話をしてあげたい。ぼくの最後のサマースクールだからこそ、サマースクールの楽しさを、みんなに教えてあげたい。」
 「サマースクールって楽しいよ!みんなで楽しくするものなんだよ!本気で楽しめば、なんでも楽しくなるんだ!」と意気込んで、お母さんに伝えていたそうです。

 言葉で伝えるのは簡単です。しかし、子どもたちが憧れ、子どもたちの心に残るのは、それを実行している人の背中をみることなのかもしれません。Kくんは、まさにそれを体現していたのです。
  花まる学習会では「魅力ある大人」を育てることを教育理念として掲げています。魅力ある大人とは、正論を振りかざすのではなく、かっこつけるのでもなく、Kくんのように背中で語れる人なのかもしれません。

 

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