【11】子どもと大人
ある日の授業後、教室前の外で戯れていた兄弟がいました。弟が何かの拍子に転んでしまい、泣き出してしまいました。すぐにお母さまに抱かれると安心したのか、泣き止みました。お母さまに抱かれたまま私の目の前を通りましたので、「バイバイ!」と手を振ると、彼は教室の横に伸びている木を指差し、「あ、木の実がある!」と言いながら満面の笑みを浮かべていました。つい数十秒前に痛い思いをしたはずなのに、それを引きずることはなく、すでに彼は別のことに興味を持っていました。私は何事も切り替えが早い年頃だなとつくづく感じました。
普段授業をしておりますと、たまに子どもたちが言い合いをする場面があります。ある日の授業前、「勝手に僕のテキストに落書きしないで!」「だって、○○くんが先に書いたじゃん!」「やってないし!」「やったよ!」とお互いの意見を主張していました。しかしながら、授業が始まると目の前のテキストに集中し、困ったことがあれば一緒に問題を解いている姿がありました。我々大人が同じようにもめ事をすることがあったらいかがでしょう。状況にもよりますが、子どもたちのようにすぐに気持ちを切りかえることは難しいのではないかと思います。
振り返ることが苦手な幼児期において、子どもたちは今を毎日一生懸命に生きています。子どもと大人で気持ちを切りかえる速さに差があることは、きっとこのような時間軸の考え方と密接な関係性があるのではないかと思っております。そのため、嫌なことがあったとき、子どもと大人とではそれぞれ異なる反応を示すのでしょう。
話は変わりまして、年長の授業中の様子です。
「あー!Aくん、勝手に色鉛筆をとってはいけないんだよ!先生に言うからね!」Bくんはそう言って席を立ち、私のところに来て「先生、Aくんがね、Cくんの色鉛筆を勝手にとったんだよ!いけないよね!」「Aくんが勝手に色鉛筆をとったんだね。うん、わかった。」とCくんが言ったように私も繰り返し返答をすると、Cくんはそれで満足したのか席に戻りました。同じようなことが別のテーブルでもあり、Eちゃんが「先生、Dくんが私のブロックをとったの!」「Dくんが勝手にブロックをとったんだね。」と、こちらも受容し共感しました。Eちゃんも私に話をするとスッキリしたのか席に戻りブロックの続きをしました。
BくんもEちゃんも、私に解決することを求めているというよりも、私に「今の気持ちを伝えたい!わかってほしい!この気持ちを何とかしたい!」という気持ちから来る言動だったのかなと思いました。よくよく考えますと、私たち大人も日常生活や仕事などを通して、子どもたちと同じような気持ちになることをたくさん経験していると思います。本当に解決してほしいから身近な人に相談することもありますが、どちらかというと、とりあえず相談したい!と思うこともあるのではないでしょうか。
子どもたちを見ると私たち大人とは対照的に感じることもありますが、同時に子どもも大人も同じような心の反応をするのだな~と思うことがあります。子どもと大人の違い、同じ人間であること、そこに面白さを感じた時間でした。