【9】「少しずつ」

  先日、年中さんのA君とののある男の子との出会いから、高校時代の経験を思い出しました。私は高校のとき、小さなころから憧れを抱いていた吹奏楽部に入部をしました。高校生から始めたため、小さいころから続けていた周りの部員とは大きな実力の差がありました。周りと比べてできない自分に落ち込む毎日。「もっとうまくなりたい」「コンクールに出たい」その一心で練習を重ねました。
しかし、周りとの差はどんどん大きくなっていくばかり…。心の中は悔しさと焦りでいっぱいでした。ならば、「人の倍努力をしよう」「アドバイスを吸収して自分のものにしよう」と、誰よりも早く登校をして練習し、帰りも一番遅くまで残って練習をしました。また先輩や顧問の先生からいただいいたアドバイスはすべて記録し、実践。家に帰っても頭の中は吹奏楽のことでいっぱいでした。高校二年生の夏休みのある日のことでした。私が空き教室で練習をしていると、顧問の先生が教室に入ってきてふと、「綺麗な音になったね」とほめてくださいました。吹奏楽部に入部してから、初めて認められた瞬間でした。そして高校三年生のときにはコンクールメンバーとして、コンクールに出場をすることができました。嬉しくて嬉しくて、家に帰ってすぐに母に報告したことを覚えています。憧れの舞台で演奏できたあの瞬間は今でも忘れられません。そんな経験をしたかたらこそ、1つ1つ吸収していけばゆっくりでも確実に成長をしていくことができると確信しました。

 ある日の思考実験で、紙飛行機を作って誰が一番遠くまで飛ばすことができるか競争をしていました。年中のAくんは、まずは「飛ばしてみよう」とリズムをつけて飛ばしてみるも、遠くには行かず飛行機は近くに落ちました。それでもAくんは諦めずに「もう一回!」と再び挑戦。それでもあまり遠くまで飛びません。そこで「少し上に向かって飛ばすとよく飛ぶよ」とアドバイスを先生にもらうと、「1、2、3!」と少し上に向かって投げ始めました。一回目は、強く投げて、紙飛行機はAくんの足元に落ちました。二回目の挑戦では、「優しく投げてごらん」と先生に言われ、「やってみるね!」と飛行機を優しくそっと投げました。するとふわっと上に飛行機が飛びました。しかし、まだ遠くには飛びません。三回目、先生の動きをじーっと見つめて、まねをしながら紙飛行機を投げたAくん。「さっきよりも遠くに飛んでいったね」と先生に言われ、嬉しそうにAくんは頷きました。「もっともっと投げてみる!」とアドバイスを吸収し、何度も挑戦をしていくことで、Aくんの飛行機はどんどん高く飛ぶようになっていきました。

 何度も何度も諦めずに挑戦をしていくこと、アドバイスを吸収して行動に移すことで、誰しも必ず成長していくことができます。一度では成功しない時もあるかもしれません。しかし、ゆっくりでも少しずつ、出た芽はやがて花を咲かせます。
 教室の子どもたちが成長をした瞬間を見逃さず、「よくできたね」「がんばったね」「前よりもできるようになったね」と声をかけられるように、子どもたちの隣で見守り続けてまいります。

 

まえへ  つぎへ