【154】「失敗」か「成功」か

 サマースクールで子どもたちに大人気の川遊び。リーダーと水かけ対決をしたり、おもしろい形の石を探したり、石に石で絵を描いたり、さまざまな遊びを楽しんでいます。
 川遊びは川の浅瀬で行いますが、もっとレベルの高い川に挑戦できるのが「リバー探検隊」。流れが強く、大人でも腰の高さまでつかるぐらいの深さの川を一歩一歩進んでいく「沢登り」、水が流れる2mの高さの坂を駆け上がる「駆け上がりの坂」、足がつかないほど深いところに崖から飛び込む「飛び込み」などの活動を行います。

 今年のサマースクールでリバー探検隊に参加した5年生のWちゃん。かなりの慎重派で、浅瀬でも「こわい…!」となかなか進むことができませんでした。それでも、班の仲間やリーダーの手を借りながら、一生懸命進んでいました。
 沢登りのあと川を下る途中で、小さな飛び込みスポットがあります。飛び込みを行う崖より高さは低いですが、飛び込んだあとに足はつきません。それまで恐怖心に耐えながら沢登りをがんばっていたWちゃん。我慢の限界だったのか、飛び込み場所に立って、「無理!できないよ!」と泣き出してしまいました。最終的に、リーダーと一緒に横の崖を下って、班に合流しました。
 午前に沢登り、午後に飛び込みを行うのですが、沢登りでのWちゃんの様子を見ていて、飛び込みをがんばれるかどうか心配でした。飛び込みをする川に移動し、いざ飛び込みの時間に。やはり、Wちゃんの表情は曇っていました。「飛び込みできそう?」と聞くと、「絶対行かない」とのこと。一旦他のリーダーにWちゃんを預けて、自分の班の子を飛び込み場所に連れて行きました。

 楽しそうにどんどん飛び込んでいく子どもたち。水面に浮かび上がったときの表情はとても晴れやかでした。「気持ちいい~!」「もう1回やりたい!」と列の最後尾に並び直します。
 そんな仲間たちの姿を見てか、Wちゃんが他の場所で飛び込みにチャレンジしていました。リーダーに見守ってもらいながら、まずは飛び込み場所に座ってみる。高さに慣れることからがんばっていました。
 真剣に水面を見つめ続けるWちゃん。ときどき「やっぱりこわい」と戻ったり、再び飛び込み場所に座ったりしていて、がんばりたい気持ちと不安な気持ちで葛藤しているのだろうなと伝わってきました。

 結局、Wちゃんは最後まで飛び込むことができませんでした。しかし、川からの帰り道でWちゃんに話を聞くと、「飛び込みはできなかったけど、川に飛び込もうとはしたし、がんばった!なんか勇気が出てきた」とのこと。その表情はすっきりしていました。

 飛び込むことを最終的なゴールとするなら、結果だけ見れば、飛び込みができなかったのは「失敗」と考えられます。しかし、Wちゃんはこの結果を「成功」と捉えました。
 上手くいかなくても、過程に目を向けて自分なりの「成功」を見つける。この考え方が今のうちからしっかり身についているWちゃんは、将来絶対に伸びると確信しました。

 「過程に目を向ける」ということはさまざまところで聞きますし、花まるでも大事にしていることではありますが、失敗しても前向きでいるというのは案外難しいと思います。誰だって、失敗の結果を目の当たりにすれば多少は落ち込みます。
 花まるの教室でも、「失敗」する場面はあります。たとえば、花漢(花まる漢字テスト)で不合格だった3年生のMちゃん。結果を知って悲しそうな表情をしていました。ただ、Mちゃんは飛び級にチャレンジしていて、しかも合格まであと4点というかなり惜しいライン。「Mは飛び級にチャレンジしたんだからすごいよ!」と伝えると、「そっか、私がんばったのか!」とMちゃんの表情がパッと明るくなりました。
 落ち込むこと自体は悪いことではありません。落ち込んだとしても、「でも私はこれをがんばった!」と胸を張って言えるような、強い心の子どもたちになってほしいと思います。物事がうまくいかなかったときにそれが「失敗」で終わらないように、その子なりにがんばったところを具体的に伝えることで、「自分なりの『成功』を見つける」という視点をもてるようにサポートしてまいります。

 

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