【144】「びゅん!」な優しさ

 先日、1年生の女の子が体験授業に来ました。教室に入ってくると、自ら私に「こんにちは!」と挨拶をしてくれました。その表情からは、緊張よりも「ワクワク」が伺え、終始、笑顔で授業をうけていました。
 しかし、授業が終わるそのときです。その子の様子が一変しました。顔を真っ赤にして今にも泣きだしそうなのです。私が数分の間、後ろで授業を見学されていたお母さんとお話しをして戻ってきたときのことでした。「おや、どうしたんだ!顔が真っ赤ではないか!」と心の中であせりましたが、その理由はすぐにわかりました。キューブキューブ(低学年クラスで使用する積み木)の「箱しまい」が、なかなかできなかったのです。※箱しまい、とは、形の異なるピースを全て使い、立方体型の箱にしまうことです。
 授業終盤に、「たくさん頭を使った〜!」と、ちょっとお疲れモードだったので、よかれと思って「このキューブキューブを、箱にしまってごらん」と、私がすすめたのでした。授業が終わる時間が迫っていたため、一度、挨拶をします。
 「ありがとうございました。さようなら。」
 そう言って他のみんなが帰ろうと立ち上がった瞬間、
 「うあああああ〜ん」
 教室に大きな泣き声が響き渡りました。ついに、溢れだしました。涙。もう、かわいくて仕方ありません。

 「悔しかったね」「よく頑張ったね」「できなくても大丈夫だよ」私が、かけられる言葉はたくさんあります。その子のもとへ行こうとしたところ、3年生のJくんが「え、どうしたの?!」と勢いよく私の前を横切りました。それにつられるようにして、3年生のAちゃん、2年生のHちゃんもその子の机の周りを囲みました。3人とも「どうしたの?」と尋ねても、返答が得られないとわかると「どうして泣いているの?」と、私に目で訴えかけてきました。
 「キューブキューブの箱しまい頑張ったんだよね」とその子に伝えると、悔しさが倍増したようで、さらに大きな声をあげながら涙を落としていきます。その様子を見て、Jくんが、「え!もうこんなに箱の中にしまえたの?すごいじゃん!ぼくのときはこんなにできなかったよ!初めてのときはね、本当にできないよ!ここまでできたの、本当にすごいよ!!」と言いました。
 わあ、なんて素敵な励ましなのだろうと、私まで泣きそうになりました。「しまえなかったピース」よりも、「こんなにしまえたの?」と、できたことに注目し、それを認める姿に、胸が熱くなりました。花まるでは、そういった声掛けが当たり前に飛び交うので、Jくんも自然とそういった言葉をかけられるようになったのかもしれません。

 また、人の泣き声を聞いて、「どうしたのだろう?」「何かあったのかな?」と瞬時に反応し、その子に寄り添える子どもたちを見て、「優しさ」の新たな一面を知れた気がしました。「優しさ」とは、思考よりも先に出る「行動」のことなのかもれないなあと。Jくんは、「泣いている子がいる」と気付いた瞬間には「びゅん!」と私の前を光の速さで通りすぎ、あの子の横にいたのです。考えるよりも先に、そんな風に届けられる「優しさ」は、いつもそっと誰かの心に、温かい風を吹かせている気がします。
 キューブキューブがしまえずに涙をこぼしていたその子は、Jくんの言葉を聞いたあと、口をへの字にしながら、ひくひく言いながら、残りのピースに手を伸ばしました。

 

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