【143】まねっこの自由

  先日、五感あそびの時間の前にこんな問いかけをしてみました。
「誰かがあそんでいたり何か作っていたりして『それいいなぁー』と思ったら、まねっこしてもいいと思う?」
 おやこクラスの答えは、「まねっこ、大歓迎」。だって、自由なあそびの空間ですから。まねをするかどうかも、自分で選んでいいのです。そう伝えて始まったクラスの、Sさん親子のあそびがとても印象に残っています。
 Sさん親子はその日、年少のKちゃんと、姉のRちゃん、そしてSさんの3人で参加されていました。素材は紙粘土。道具が出されると、小学生のRちゃんは「メロンパン」と金網で模様をつけ始めました。Kちゃんも、「ねえねと同じにする。」と、金網をギューッと粘土に押し付けます。すると、金網がめりこんで深い切れ込みが入り、それを見たSさんとKちゃんは「マンゴーだ!」と楽しそう。Rちゃんが絵の具を使い始めると、Sさんは「私も絵の具使おう。」と粘土に絵の具を練りこんで、パステルカラーを作り始めました。Kちゃんは、「ねえね、どの色使ったの?」と質問。Rちゃんの使っている黄色を粘土に混ぜていきました。それから、「Kもママみたいにする。」ともつぶやきました。最終的にそのときの作品がどうなったかというと…。Rちゃんは、緑と青のマーブル模様にスパンコールをワンポイントあしらったもの。Sさんは、パステルカラー4色をタブレット型にしたものを組み合わせた作品に。そしてKちゃんは、手のあとがそのまま残ったところもある複雑な造形に、黄と青の絵の具がからみ、さらにカラーペンで書き込みされ、スパンコールがひとつ添えられた作品です。パッと見た感じは、ふたりとまったく違うもの。ですが、確かにママやねえねの作品へのあこがれが詰まっています。まねっこしてできた、Kちゃんのオリジナル作品です。
 クラス後、Rちゃんが私のところにやってきて、「これを元にしたの。」とある作品を指差しました。例として持ってきた、私の娘のものでした。帰宅してから娘にそれを伝えると、「嬉しいー!」と大喜び。Rちゃんの作品の写真を見て「私も今度これをまねする。」と言い、最後に「学校ではまねしちゃダメって言われるんだよね。」と一言。ハッとしました。実は、冒頭の問いを投げかけたとき、Rちゃんが視線を泳がせたように見えたからです。まねしてもいいのかどうか、一瞬迷ったのではないでしょうか。ちなみに、3歳さんと年少さんは、「何の話?」と言わんばかりの反応で、安心していました。
 子どもたちが何かを「まねっこ」するとき、そこには相手へのリスペクトがあります。そして、真似された子はとても誇らしげです。この「まねっこ」は、互いを幸せにしています。
 こんなこともありました。小学生向けの創作クラスで、クリアファイルを使ったモビールを作る回。ある女性スタッフが、ひとつの作品に注目しました。「どうやってこの形にしたの?」傘を逆さにしたような作品を作った小学5年生の男の子に質問し、彼はニマニマと得意げにアドバイス。スタッフは「そんな方法が…!」と悔しそうに、真剣に聞いていました。実は彼女は、美大生。正解のないあそびや創作の世界に、年齢や経験は関係ないのですね。「オリジナルでなければというプレッシャーから、自由に作れないと感じることがありました。」とは彼女の言葉です。
 改めて、「自由」とは何でしょう。手元の辞書によれば、「他から制限や束縛を受けず、自分の意志・感情に従って行動すること」だそう。おやこクラスの中にある自由は、もっとワクワクするものだと思っています。ここにあるのは、「誰かの表現を感じながら、自分で選び、楽しむ自由」です。仲間の存在が、より自由の幅を広げてくれます。おやこ同士も、そんな関係でいられたら、幸せだと思うのです。
 自分の名前にも、自由の「由」が入っています。「自由にのびのびと」の願いを込めて親からもらった字です。皆が自由でいられる空間を創れているか。人を幸せにする自由さを持ち続けられているか。自分に問いながら、素敵な仲間たちの待つクラスに立ちたいと思います。

 

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