【114】折れない心を育む

 8月に野外体験に子どもたちを連れて行きました。バカンスでもなく、ツアーでもない、「生きる力」を育む。それが花まる学習会の野外体験です。活動ではもちろん、布団の片づけひとつ切り取っても学びの要素が盛り込まれています。

 私は「2泊3日火おこしの国」に参加してきました。活動場所の近くから燃えそうな枝を見つけ、火をおこすことがひとつのゴールです。中には火をおこしたことがない子もいたため、試行錯誤の連続です。“セオリー通り”火をおこすのであれば、可燃性のある松の葉や、枯れ葉に火をつけ細い枝から、太い枝へ火を大きくしながら移していきます。ただ、「火がつかないからこそ」学べるものも多くあると考えています。「子どもたちだけで火をつけられるチームは、見たことないな。火をつけられたら伝説になるかもしれない…。」と子どもたちの心にだけ火をつけて、手は出しすぎず活動を見守るようにしました。

 「おれ、薪を割るよ!」「こっちに風を防ぐ壁を作るね!」「燃えそうなものを見つけたから持ってきた!」担当していた子どもたちは、役割分担をし始め、どんどん手が動きます。何回もチャレンジしているためか、マッチをするのが上手になる子どもたち。ただ、なかなか火が燃え移ることはありません。「まずは小さな枝や葉につけるんだよ!」と喉元まで来て何度も言いたくなりましたが、ぐっとこらえ見守り続けました。

 「おぉ!ついた!すごい!よっしゃ!」と声を上げたのは隣の班。奥の方でも煙が立ち始め、少しずつ火おこしに成功する班が現れ始めました。班の中で最年少の2年生の男の子Hくんは、もう無理なのかもしれないと困り顔。しかし手が止まってしまっては、つくものもつきません。「ここまでよく頑張ったね。まだ火はついていないけど、Hの頑張りを〇〇(野外体験中はリーダーネームというものがあり、〇〇先生ではなく、「〇〇」と呼ばれています。)は見ていたよ。残り5分しかないと思うか、あと5分もあると思うかはHの自由だよ。ここまでHはよく頑張った。最後の5分も力の限り、トライしてやり切ってごらん!」
 Hくんをはじめ、ここまで〇〇班は本当によく頑張りました。行動し、工夫し、行動し、工夫し…。文字通り試行錯誤の連続でした。「2泊3日火おこしの国」では翌日も火おこしを行います。「2日目に期待かな…」と思ったそのとき、ぼっと火がつきはじめたのです。

 「〇〇!ついた!やった!燃えた!!!」と子どもたちは飛び跳ねて大喜び。最初から最後まで自分の力でやり切れたことが嬉しかったようで、炎を見つめうっとりする子もいるほどでした。Hくんに「どう?」と声をかけました。すると「今日はめっちゃいい日や!」とこれまた嬉しそう。火がついただけではなく、最後までやり切れたことも含めて「めっちゃいい日」になったのだろうと考えています。

  彼らの姿を見て、諦めない経験をすることの大切さを感じました。ひとつの火をおこすことにも工夫し考える姿がとても美しく見えたのです。時間をかけて頑張り続けたからこそ、続けることの大切さを体感できたと思います。野外体験のいいところは、取り組みの時間がこれでもかというくらいたくさんあることです。また、遊びの中なのでやらされ感なく取り組めるところです。

 サマースクールを終え、2学期の授業が始まり、教室でも子どもたちを見守りつつ、心に火がひくように声をかけることが増えたように感じます。自分の力でやり遂げたほうが、子どもたちにとって学びがあると考えるからです。向き合うべきことに自分の頭で、考え続けられるような声掛けを行ってまいります。自分でやれた!という経験の積み重ねが、子どもたちの「折れない心」が育っていくと信じています。「あのとき、花まるにいったから〇〇ができるようになった!」といつか子どもたちが感じてくれたら幸いです。

 

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