【111】幻の『世間一般のご家庭』

 GWに学生時代の友人たちとのオンライン飲み会があり、近況報告や思い出話に花を咲かせた時間がありました。オンライン飲み会だと、お子さんが画面にひょこっと顔を見せることもあります。先月は一児の母である、友人Aの画面に5歳のかわいい女の子がお絵かきノートを持って、「ママ~、お絵描きしよ~。」と登場しました。
「いいよ、ちょっとだけね。」
「ママ、ここに道をかいて。」(ミニカーを走らせる道を描いて欲しかったようです)
「はい、描いたよ。」
「え~、もっと大きい道がいい!」
「そう?この車が通れる広さだと思うけどな~。」
 という何気ないやりとりが聞こえてきたのですが、母である友人の話し方が私には興味深く感じられました。声は優しく愛情も伝わるのですが、Aがいつも私達と話す時と同じように、冷静で淡々としたトーンで我が子と話をしていたのです。そのことを私が突っ込むと、Aは「意識してそうしているんだよね。うちではこれが普通だけれど、世間一般のご家庭とは違うのかな?」と逆に質問されました。
 『世間一般のご家庭』と言われ、ふと、どのような家庭だろうと考えました。花まるで様々なお家の話を聞きますが、皆さんそれぞれ違います。そのときは「世間一般のご家庭なんて幻だよ。」と冗談で返したのですが、この会話が私の中にずっと残っていました。

 今月は面談期間ということで、いつも以上にたくさんの保護者の皆さまとお話をさせていただきました。お子さまのお家でのエピソード、学校での友人関係、読んでいる本や好きな遊びの傾向。多くの話題を通して、授業中の様子だけでは見えない子どもたちの新たな一面を知ることが出来ました。面談では、質問や相談をされる方もいらっしゃいます。最近の面談でよく聞かれる質問は、「他のお子さんやお家だと、どうですか?」、「○年生だと普通は△△ですか?」でした。
 例えば、あるお母さまからはこんな相談がありました。「もう三年生だから自分で本を読んで欲しいけれど、読み聞かせをまだして欲しがるんです。三年生なら、他のお子さんは読み聞かせをもう卒業してますよね?」
 確かに、読み聞かせは小さい子向け…というイメージを持つ方が多いと思います。ですが、別の三年生のお母さまからは「読み聞かせが大好きだから、寝る前にその時間があって…」というエピソードを聞きました。さらに別のお母さまからは、「年長なのに読み聞かせを卒業しちゃって、逆に私が寂しんです。」という話を聞いたこともあります。「読み聞かせ」だけでも一人ひとり、一家庭ずつでこんなに違います。まさに十人十色です。
「読み聞かせ」の話題が続いたからでしょうか。数年前に担当していた四年生の女の子が書いたある作文を思い出しました。その子のお家では家族みんなで川の字になって寝ていて、お母さまが妹さんに読み聞かせをしているそうです。その作文には「私は、お母さんに本を読んでもらうことはもうないけれど、妹が読んでもらっているのを横で一緒に聞くのが好き」ということが書いてありました。一人で本を読める子でも、読み聞かせが好きだったり、お母さんとの大事な時間になったりしていることもあるのでしょう。

 友人Aが言っていた『世間一般のご家庭』のように、私も「男の子あるある」「長子あるある」など、よくあるパターンを保護者の方にお話させていただくことがあります。ですが、子どもたちと向き合うときは「男の子だから」「○年生だから」はあまり考えておらず、「Bちゃんだから」「Cくんには」という気持ちで接しているな、と面談をしながらふと思いました。私が友人Aにとっさに返した「世間一般のご家庭なんて幻だよ。」は冗談ではなく、心の底で思っていたことだったのだと気がつきました。
 ちなみに、読み聞かせのご相談をいただいたお母さんには、その子の心の成長段階で読み聞かせをして欲しいときなのかもしれない、お母さんを独り占めできる時間なのかもしれない、とお話させていただきました。「○年生なら普通は…」と不安になるのは、保護者の皆さまが我が子を想うからこそです。だからこそ花まる教室長として、その子自身の、そのときの成長のために必要なものを「世間一般」「普通」にとらわれずに、ご家庭と一緒に考えていけたらと思います。

 

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