【109】「楽」と「楽しい」
今回のコラムでは、9月に行った保護者面談のときに、Hちゃんのお母さまからお聴きしたお子さまのエピソードをお届けしたいと思います。
今年の夏休みに、鉄棒で「空中逆上がり」ができるようになりたいと、一生懸命練習をしていた3年生のHちゃん。夏休み最終日の前日である8月28日に、Hちゃんが書いたじゆう作文には、このように書かれていました。
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
わたしは、宿題で、空中さか上がりのれんしゅうをしています。この前やったときにマメのかわがむけてしまいました。でも、8月29日にはできるようにならないといけないので、ガーゼをマメのところにまいて、ぐんてをしてやっています。あとはうでを引き上げればいいけれど、それができなくてこまっています。弟の方が、いきおいがあるけれど、そのまま下に落ちているのでできません。でも、わたしは、いきおいより前にたおれているので、弟とわたしを合体させればいいけれど、できないのでざんねんです。でも、いつも「弟とわたしが合体するとできるのになぁー。」と思っています。
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
マメができるほど頑張り、そして、マメが破れてしまってもなお、投げ出さずに挑戦し続けるHちゃんの根性や気迫がひしひしと伝わってくる作文でした。そして翌日、迎えた夏休み最終日。この日もお母さまと一緒に、朝から自宅の鉄棒で練習をしていたそうです。「素直にできませんでしたって書こうか?」とお母さまが聞くも、「やる!」と言って決して諦めなかったHちゃん。
その強い想いは、午後になりしっかりと実りました。ついに成功したのです!お母さまとHちゃんは、涙を流しながら狂喜乱舞。そして、その2人の歓喜を聞き、お父さまや弟も「できたんだ!」と駆けつけ、家族で喜びを分かち合ったと言います。「今年の素敵な夏休みの思い出ができました!」とお母さまはおっしゃっていました。
もう8年近く前になりますが、花まるの野外企画「親子海釣り王国」にスタッフとして参加したときも、最後まで諦めなかった親子のエピソードがありました。その親子は、何度釣り糸を垂らしても魚を釣ることができずに苦戦していました。でも、「どうすれば釣れるの?」とコツを聞いては実践の繰り返し。決して諦めることなく糸を垂らし続けました。そして最後の最後、「今垂らしているのが最後です!帰りますよ!」とスタッフの号令がかかったタイミングで、見事その子が魚を一匹釣り上げたのでした。その場にいた私も、思わず胸が熱くなり、お父さまとその子と3人で抱き合って大喜びしたことを今でも鮮明に覚えています。
「楽(らく)」と「楽しい」はどちらも同じ漢字を書きますが、その意味は大きく異なります。私は山登りが趣味なのですが、楽をしてロープウェイで登った山よりも、苦労をしてやっとの思いでたどり着いた山頂からの眺めほど、心に深く刻まれ、「楽しい!」と感じるものはありません。
これからを生き抜いていく中で、困難や苦悩に出くわす場面はたくさんあると思います。でも子どもたちにはそんなときこそ、簡単にあきらめてしまうのではなく、「逆境こそチャンス!!今を楽しむぞ!!」と、顔をあげて踏ん張り、その状況を楽しみながら、噛みしめて生きていってもらいたいと思うと同時に、私自身もそんな人生を歩んでいきたいと思います。