【107】成長を置き去りにする子どもたち
先週の授業では、学期に一度のHIT(花まる脳力テスト)と花まる漢字テストを行いました。
入会したばかりの一年生のAちゃんにとっては、今回が初めてのHITです。来週がテストだということを伝えると、不安そうな表情を浮かべていました。HITの三日前には、「カタカナを覚えきれず、点数が取れないと分かり受けたくないようです。」というメールがお母さまから届きました。しかし、入会当初と比べると、文字の認識も、読むスピードも、確実に成長しているのです。今回のHITに挑戦すること自体が、Aちゃんが自分自身の成長を実感するためのものになると思い、どうにか来てもらえるよう、背中を押してほしいと返信をしました。
普段の授業で、問題文を指や鉛筆でなぞりながら、時間をかけて読み進めているAちゃん。カタカナが出てくると、カタカナ表を見て毎回自分で確認しています。一度で理解できない時には、首を傾けて悔しそうな表情を見せることもありましたが、決して諦めず、講師と一緒に何度も読み返す場面を見てきました。転写教材の「あさがお」の宿題では、お母さまが一文字一文字に書き順を記してくださり、毎日丁寧に取り組んできていました。教室での「あさがお」の時間では、もっと丁寧に書ける字がないかを探し、時間いっぱい書き直しをする徹底ぶり。さらには、HITに向けて、ご家庭で毎日カタカナドリルにも取り組んでいたのです。
ここまでコツコツと努力ができることは、簡単ではありません。お母さまの熱心なサポートもあり、確実に成長していきました。しかし、「読めるようになってきたね」とこちらが声を掛けたとしても、どこか自信が無さそうなAちゃん。本人が成長を自覚しなければ、彼女の自信には繋がらないと思いました。あとは、HITの日に彼女が来てくれることを信じて待つだけです。
そしてHIT当日、Aちゃんは教室に来ることができたのですが、いつもの元気な挨拶はなく、不安でいっぱいのようでした。テストが始まると、問題を自分で読み始めるAちゃん。少しでも理解できない文章があると、首を傾けながら「助けて」と訴えるような目で私を見てきました。緊張と不安で、さらに自信がなくなっているように思えました。しかし、これまで努力を積み重ねてきた彼女なら確実に理解できます。私はグッドサインと共に、「できる」というメッセージを込めた頷きを彼女に返しました。すると、彼女もそれにこたえるように大きく頷き、再び文章を読み始めました。
テスト中、同じような場面が何度かありましたが、私が文章を代わりに読んであげる必要はありませんでした。いつものように、一文字一文字丁寧に読み進めたAちゃんは、文章の意味を確実に理解し、問題に答えていったのです。
HITが終わったあとのAちゃんは、緊張と不安から解放され、伸びをして笑顔を見せていました。「自分の力で読むことができたね!」といつものように声をかけたあと、「それはなんでだと思う?」と聞いてみました。すると「知っている字が出たの!」とAちゃん。運が良かったから問題を読めたのではないよ、と私は心の中で思いました。「Aがこれまでたくさん頑張ってきたからじゃないかな。」と伝えると、「うーん、あさがおのおかげかも!」と、初めて肯定的な返事が返ってきたのです。お母様とも喜びを分かち合い、Aちゃんの自信はここから積みあがっていくと確信しました。
Aちゃんが言った「知っている字」というのは、以前の彼女は知らなかった字です。カタカナを見ても読み方が分からなかったのに、今では書けるようになっているということは、紛れもない成長なのです。
子どもたちは、様々な成長を自覚することなく、それらを意識の外に置き去りにしてしまうくらいに日々を全力で生きています。だからこそ、時には立ち止まって、成長を実感できる機会を与えてあげたいと思っています。「いつの間にかできるようになっている」ということはありません。今現在できていることでも「なぜできるようになったのか」を考えてもらい、答えが出てこなければ、大人が言語化してあげる。その積み重ねが、子どもたちの自信に繋がると信じています。