【103】勇敢なサムライたち
私がこの夏参加したサマースクールの「サムライの国」のコースでは、子どもたちの様々な葛藤が見られました。サムライの国では、子どもたちはスポンジの刀を持ち、命の代わりとなる紙風船を太ももにつけてサムライとして戦います。相手の総大将を討ち取るか、相手を全員倒したら軍にポイントが入ります。最終的に最も多くポイントを獲得した軍が天下統一(優勝)となります。
3泊4日の3日目、最終戦が行われました。最後は子どもたちだけで戦う子ども大将戦です。「大将やりたい人?」と聞くと「はーい!」と皆が手を挙げるほど、大将として戦いたい子どもはたくさんいました。その中で最後の子ども大将を務めたのは6年生のYでした。Yが大将をつとめることに決まったとき、周りからはこんな声が飛び交いました。
「Yいけ!」「Yならできるぞ!」「Yに任せよう!」「やっぱりYだよな!」
これはきっと、いちサムライとして戦ってきたYの姿勢や集団生活での姿を見て、この人なら任せられる、この人にお願いしたいという気持ちが芽生えたからでしょう。Yには仲間からの厚い厚い信頼があったのです。仲間からの声援に背中を押され、Yは「任せろ!」と胸を張って戦場に向かって歩き出しました。Yの背中は自信とやる気に満ち溢れていて、これからどのような戦いが繰り広げられるのか楽しみになりました。
合戦が始まると、Yは仲間に指示を出したり自ら攻撃に行ったりと積極的な姿勢を見せていましたが、どこの軍も一歩も譲らない接戦となりました。結果は3軍とも生き残り、天下統一戦の勝負の行方は大将同士の一騎討ちへと持ちこまれました。今回は三つ巴となったため、3軍それぞれの子ども大将が代表として軍を背負って戦います。Yは「行ってくるよ!」と刀を高く挙げ、後ろを振り返ることなく戦場へと向かっていきました。その姿はとても勇ましく、まるで本物のサムライのようでした。
いよいよ、はじめの合図が鳴り、天下統一を懸けた熱い戦いが始まりました。3人が牽制し合いながら隙を狙って攻めにいきます。Yの軍は「Y頑張れー!」という仲間の声と拍手でYを懸命に応援します。すると、「パン!」という音が聞こえました。戦場が静まり返ります。皆の視線の先には割れた風船。その主は相手軍の風船でした。なんと、Yが相手軍の風船を割ったのです。「よし!」というYのガッツポーズとともに「やったー!Yすごいぞ!」という仲間の歓喜の声が一斉にあがりました。Yの軍の皆の胸が高鳴ります。あと1人倒せば天下統一…。皆は精一杯の力で両手を合わせて、Yにパワーを送りました。「パン!」また音がしました。祈るような思いで、Yに視線を送ります。するとそこには、割れた風船と驚いた表情のYが。一瞬、時が止まったような気さえしました。天下統一まであと一歩のところで惜しくも敗れてしまったのです。Yは「ちくしょー!」と悔しがりながら仲間の元へ帰ってきましたが、そこにはYを心から称える仲間たちが待っていました。「お疲れ様!かっこよかったぞ!よくがんばったな!」と声をかけながらYは仲間たちと抱き合いました。そして、「悔しいけどやりきった!悔いはない!」とYは満面の笑みを浮かべ、「みんなありがとう!」と深くお辞儀をしました。
この3泊4日、子どもたちには楽しさ、喜び、悔しさ、悲しみ、様々な感情が芽生えたことでしょう。強い絆で結ばれた仲間の存在があったからこそ、その感情を分かち合うことができたのだと思います。子どもたちの熱い思いと仲間を思いやる気持ち、そしてその思いに応える勇敢なサムライの姿は、それはそれは美しいものでした。仲間がいる素晴らしさを知った彼らには、この夏の思い出を胸に、強く優しいサムライの心を持ち続けてほしいと思います。