【松島コラム】『非常時でも』 2022年4月

【松島コラム】『非常時でも』 2022年4月

 3月16日の夜、福島県沖で起きた地震に、東日本大震災の記憶がよみがえった方もいたのではないでしょうか。自宅にいた私も反射的に避難袋とヘルメットを手にしていました。被害にあわれた関係者のみなさまには心よりお見舞い申し上げます。
 1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災は、センター試験が終わったばかりの、まさに入試シーズンがこれから始まろうとしているときのことでした。建物は倒壊し、ライフラインも寸断され、受験生への連絡手段もままならないなか、それでも日程を遅らせるなどして入試は行われました。今回の新型コロナウィルスの感染拡大でも、「本当に入試はできるのだろうか」という声も聞かれましたが、学校側・受験生側の周到な準備によってほとんどの学校で予定通りに行うことができました。
 さかのぼれば太平洋戦争中でも、東京大学(当時は東京帝国大学)は、1944年の秋入学者に対して、それまでの筆記試験ではなく現在の推薦入試にあたる調査書による選考を行いました。戦後も入試が中断されたことはほとんどありません。
 そもそもいまの日本の教育制度では一斉に入試を取りやめること自体が不可能に近いのです。たとえば高校入試を中止にして無試験で高校に振り分けることは現実的には難しいでしょう。また翌年に延期した場合でも、次の学年が合流することになるので大混乱が予想されます。新入生が入学しなければ経営危機に陥る私学が出てくるかもしれません。受験生をお預かりしている私たちとしては、どんな状況であっても入試があることを前提にして、子どもたちの学びの環境を維持しなくてはいけないと考えています。今回のコロナ対策では、オンライン授業にスムーズに移行できる体制やオンライン専門コースを整えることができました。
 しかし、先日のような電力のひっ迫や大きな地震による停電となれば、オンライン授業もできなくなります。実際に東日本大震災が起きたとき、なんとか早く授業を再開したいと思いながらも、まさに暗中模索の状態でした。計画停電が夜の時間帯になる日は授業ができません。また昼間の停電でも、雨の日や日陰になる教室は光量不足になります。街灯や信号機が消えているときは安全管理に気を配る必要もありました。ほかにも校舎によってはトイレが使えないなど課題は山積みでしたが、「こういうときこそ花まるらしく、停電に備えてトイレットペーパーの芯でランプを作ろう」という高濱からの提案などもあり、みんなで知恵を出し合い、3月23日には授業を再開することができました。休講期間中の課題の指示は、急ごしらえのネット掲示板で行いましたが、授業再開時にはほとんどの子どもたちが与えれた課題をしっかりとやってきてくれました。2年前に急きょ開設した全校オンライン自学室では、細かく指示を出さなくても当たり前のように自分の勉強に取り組める子が多かったことを覚えています。「自学ができる子を育てる」がスクールFCの指導理念ですが、こういう非常時でも黙々と自分のやるべきことに向かっている子どもたちの姿は本当に頼もしいものです。親が子どもに必要なサポートをすることは当然のことですが、いざというときに自分のことは自分でできるように、日ごろから手をかけすぎないことも大切なことだと改めて思います。受験でも大人の想像をはるかに超えて伸びる子は、自立の真っただ中にいることが多いのです。
 首都直下型地震が起きる確率はこの先30年で約70%と言われています。起きないことに越したことはありませんが、どんな状況になっても子どもたちの学びを止めないことをあきらめずに応援したいと思います。
 先月以降小さな地震が続いています。新しい生活が始まったご家庭もあると思います。この機会に非常時への備えをもう一度ご家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。

スクールFC代表 松島伸浩


🌸著者|松島 伸浩

松島 伸浩 1963年生まれ、群馬県みどり市出身。現在、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役。教員一家に育つも、私教育の世界に飛び込み、大手進学塾で経営幹部として活躍。36歳で自塾を立ち上げ、個人、組織の両面から、「社会に出てから必要とされる『生きる力』を受験学習を通して鍛える方法はないか」を模索する。その後、花まる学習会創立時からの旧知であった高濱正伸と再会し、花まるグループに入社。教務部長、事業部長を経て現職。のべ10,000件以上の受験相談や教育相談の実績は、保護者からの絶大な支持を得ている。現在も花まる学習会やスクールFCの現場で活躍中である。

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