【高濱コラム】『4つの落とし穴 ~卒業するキミへ~』 2022年3月

【高濱コラム】『4つの落とし穴 ~卒業するキミへ~』 2022年3月

 毎年3月には、卒業するみんなにメッセージを伝えています。ここ数年は、自分の心を見つめることを強調してきました。学校偏差値やランキングや年収・初任給というような、数値化しやすい社会の評価基準(これ自体は無くなることはないけれど)ばかり見て、その情報の波に呑まれてしまうと、「〇〇大学に行けなければ俺の人生は終わりだ」と思い込んで自暴自棄になってしまうような、残念な人になってしまいます。第一に、自分の心をいつもモニターして、何にワクワクするのかを見つめること。その興味関心をスタート地点として、己の実力と世界の枠組を見定めて、目標進路を決める。そして一心に努力することが大事です。
 入試や部活の大会のような勝負事って夢中になれるから、一生懸命に打ち込めるでしょう。そこで一回や二回失敗してもまったく問題ありません。むしろ失敗を恐れて行動しないとか安全地帯でじっとしているほうが、人生もったいない。失敗したらしたで、いつでも「今日がこれからの人生の初日」。原因を突き止め戦略を練り直し、再び同じ課題に突き進むもよし。まったくの新しい目標に切り替えるもよし。あなたの自由です。この基本構造を理解していれば、何も怖くありません。どんな人でも、手応えのある楽しい人生を歩めます。
 ではなぜ、嘆いたり愚痴を言ったりして生きている大人が大勢いるのでしょうか。ここでは、あなたの何倍も長く生きてきた私が見つけた、気をつけてほしい、「4つの落とし穴」について書きます。
 まず前提として話しておきたいのは、「こだわり」です。人間の心は、いろいろなものにこだわります。誰かを「愛すること」も「憎むこと」もこだわりだし、「好き」も「嫌い」も表裏一体のこだわりです。それは悪いことでもなく、一言で言えば「生まれつき人に備わったもの」です。それがあるからこそ、恋愛も子育ても充実するし、試合に勝つと嬉しい。しかし、残念な方角にこだわると、罪だって犯してしまうし戦争にもなる。つまり、「わが心の『こだわり』の運用」に長けると、人生が過ごし良くなるということでもあります。
これから言う4つも、まさしくこだわりです。

1 やらされ
 目に力がなく生気もない人を研究すると、しばしば浮かび上がるのが、このやらされ感です。まったく同じ仕事でも、Aさんは意義ややりがいを感じて生き生き楽しそうにやっているのに、Bさんは「やらされている」というこだわりから逃れられないので、ストレスをため込んでいる。決して珍しくない大人世界の光景なんだ。一回限りの人生で残念だよね。Bさんも悪い人ではないんだよ。可哀そうなのは、小さい頃から「~しなさい」ばかり言われてきていて、やらされ感がしみ込んでいるんだな。あることをやらねばと思ったとたん、ため息をついたり、「あと〇時間△分かー」と早く終えることばかり考えていたりする。
 大事なのは、遊び、どんな本を読むか、何を買うか、どのお稽古事を始めるか…等、さまざまなことについて、「これをやると自分で決める」ことだよ。決断に自信がないときは、目利きの人や尊敬する人にいくつか候補をリストアップしてもらい、その中から「選ぶ」だけでも全然違うよ。決めることが習慣になると、やることなすこと楽しく手応えのあるものに変わります。

2 比較
 人は二つ似たような物があると、どっちが大きいとか重いとか、比べてしまうもの。だからこそ、この比較するという癖・こだわりも、なかなか抜けないことの一つなんだよね。まずいのは、たとえば「いまいる場所を否定する比べ方」になる人。「あっちのクラスはいいな」とか「向こうの会社が正解だったかな」とか「結婚すべきはこの人じゃなかったのかな」などと、絶対つまらない方角に向かってしまう。可哀そうだよね。
 他人と比べることをまったくやらないのは無理だし、試合やゲームとして競い合うことを楽しむのはありだけど、「ここじゃないどこかと比べて嘆く」のではなく、「いま仲間になったこの人たちとのこの場所を、最高のものにしよう」と考えてください。そして「昨日の自分と比べて今日伸びたなー」というように、同じ比較でも自分やチームの成長に焦点を当てる見方をしよう。それが板につくと、本当にどんなことでも全部おもしろくなるよ。そして、いつでも「目の前の一人を笑顔にしよう」と考えて生きる人になってほしいです。そうすれば、どんな時代になっても「生きて存在できているいまが、いかに尊いか」と感謝して過ごせる人になれるでしょう。

3 人目
 人の目を気にするのは、人間の発育段階を考えても、ある年齢から上の当たり前のことなんだけれど、他人からどう思われるかにこだわりすぎるのも問題です。たとえばわが子が外で大声でダダをこねたとき、この子の将来の自立のためにしっかり叱ろう、というのではなく、「しつけのできていないダメな母親だなと見られているんだろうな」と考えてしまうような人だね。とっても多いんだよ。「〇〇と思われているんだろうな」と気にするほど、他人は私を気にしていないものだよ。
 いつでも、自分の心を見つめて、また信念と勇気を持って、行動を選択していってください。

4 コンプレックス
 「私はどうせ頭悪いし」「俺、モテないし」というように、自己評価の低さというこだわりから脱出できない人だね。これは悪い魔法にかかったようなもので、ある日一度思い込んだが最後、おじいさんになってもそう思っていたりするんだ。まったく同じ心のメカニズムで、真逆の魔法に「自信」というのもあって、一度「私はパズルは得意かも」と信じたとたん、これも一生続く強固な自己認識になっていくんだよね。実は私がこの良い魔法をかけてもらえた一人です。もちろん、私がどう努力しても、オリンピックでメダルを取ることはできないように、「努力してもできないこと」は、各自あるのだけれど、小中学生時代にコンプレックスに感じていることなどは、まったく嘆く必要のない思い込みや、努力すれば克服できることばかりです。「『私は数学は苦手だ』というこの想いは、まさにコンプレックスの罠にはまっているのでは?」と、自分自身を俯瞰して観察できるようになると良いね。

 どうだろう、思い当たることも多かったでしょう?
 私は、講演会後の質問や、ラジオでの子育て相談を受け続けていますが、悩みや心配事が、この4つのこだわりの落とし穴にはまっているケースも多いのです。
 10代は10代なりに、勉強、友達関係、部活、文化祭などの行事はじめ、うまくいかないことや、不安に押しつぶされそうになることもあるでしょう。そのとき、ここで書いたことを思い出して、ぜひ日記に自分の本音(弱い自分・妬み深い自分、いやらしい自分等々)を書きつけながら、自分をも社会をも「正しく見る」力を培って、試練や困難をしなやかに乗り切っていってほしいです。

 この2年間は、地球全体がコロナによって特別な状態でした。そんななか、育ち盛りで、みんなとくっついたり、たくさん語り合ったりしたいお年頃なのに、行事は中止、あれこれ「できないこと」だらけにもなったみんなは、寂しいこと辛いことも多かったと思います。しかし逆境を乗り越えた人は強い。この試練のときに育ったみんなのなかから、明確な哲学と、リーダーシップを持った人物がたくさん現れると信じています。

 雨なら雨の遊び方をすれば良いし、天から与えられた能力をフル活用して、家族や仕事の仲間を幸せにし、世界のために尽くせる人生を歩いていってください。応援しています。花まるやFCの先生やサマースクールのリーダーとして戻ってきてくれると嬉しいです。
 本当に困ったら、私や先生たちにいつでも相談しにきてください。ずっと味方です。

 卒業、おめでとう!

花まる学習会代表 高濱正伸


🌸著者|高濱正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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