【西郡コラム】『彼女は彼女』 2022年2月

【西郡コラム】『彼女は彼女』 2022年2月

 西郡学習道場では、特に4年生は基本を大切にしている。たとえば、算数では計算が素早く“スラスラできる”ことが基本中の基本になる。“スラスラできる”というのは、40と32の最大公約数と問われたら即座に8の段が見えるという意味での“スラスラできる”で、公倍数、分数の約分、通分もこれが基本になる。
  西郡学習道場を用賀校に開設したとき、約20人の4年生が集まった。私は算数の授業を担当した。その中に、九九はできても公倍数・公約数、分数の約分・通分の計算に時間がかかる女子がいた。彼女は何事も理解するまで繰り返しが必要で、再現できるまで時間がかかる。授業後、毎回のように居残りして学習していた。彼女には有名私立中高出身の父親、他塾から中学受験をして難関私立中学に合格、のちに医学部に進学する兄がいた。両親は妹を兄と同じ塾ではなく、 西郡学習道場に通わせることにした。父親の同級生に花まるグループの関係者がいて、西郡学習道場を紹介され、彼女には基本を重視する学習が必要という考えからだった。妹の入塾後、両親から彼女の学習のことや学校での生活について聞くことはあったが、兄と比較するような言動はまったくなかった。“彼女は彼女”と割り切っていた。兄が通った塾をはじめ、他塾と西郡学習道場との違いを問うようなこともなかった。実際、彼女自身にも兄と比較されて自分を卑下するような言葉も行為もなかった。彼女が兄のことを話す言葉の端々に兄を尊敬していることはうかがえた。彼女は、成長そのものを見守っている両親の信頼のなかで、理解するのに時間がかる、計算が遅いといった自分の課題のみに向き合っていた。学習の妨げになる、不必要な劣等感を持つことも卑屈になるようなこともなかった。
 3年後、決して難関中学校ではないが、彼女は第一志望校に合格した。彼女も家族も素直に合格を喜び、その喜びをもって彼女は中学生活に入っていった。やがて、彼女の数学の成績は学年で上位になっていた。偏差値の高い低いに関係なく、受験した中学校に入ればその学校に合格した生徒内での成績になり、入学後の自分の頑張り次第で成績もついてくる。“入ったところがいいところ”、合格の喜びをもって中学生活を充実させた方が、いい思い出をつくることができる。
 彼女に限らず、中学に入って数学を苦にせず得意にする子は、小学校の算数、受験算数の基本が確実に身についている。基本が“スラスラ”できて、説明できるまで咀嚼しているから、中学での数学の成績を伸ばすことができる。受験を通して、苦手を克服し上達する秘訣は練習の量だということを体得できたことで、中学生になっても練習を怠らず、学習の仕方を自分で組み立てられるようになっている。彼女のような早熟でない子ほど中学生になって、心身の成長が「伸び盛り」になり、当然、学習面も伸びる。兄と比較されることなく、彼女の成長そのものを喜んで見守る両親がいるから、安心して学習できる。安心して取り組める環境では学業も伸びてくる。
 毎年冬に学習道場のことを理解してもらう「お試し特訓」というイベントがあり、用賀校では砧公園で開催していた。スタッフとして手伝ってもらうため、卒業生に呼び掛けたところ、彼女も参加してくれた。後輩の世話をする彼女の姿を見ていると、授業後に毎回、居残りする彼女を思い出し、成長しない子どもはいない、と熟熟実感した。「伸びない子はいない」は学習道場の理念としている。他者と比べても仕方がない。その子だけを見てあげれば、「伸びない子はいない」と確信している。

西郡学習道場代表 西郡文啓


🌸著者|西郡文啓

西郡文啓 1958年生まれ。県立熊本高校卒業。高濱代表とは高校の同級生、以来、小説、絵画、映画、演劇、音楽、哲学等、あらゆるジャンルの芸術、学問を語り合ってきた仲。高濱代表が花まる学習会を設立時に参加。スクールFCの立ち上げを経て、花まるグループ内に「子ども自身が自分の学習に正面から向き合う場」として西郡学習道場を設立する。2015年度より、「地域おこし協力隊」として、武雄市の小学校に常駐。現在「官民一体型学校」として指定を受けた小学校「武雄花まる学園」にて、学校の先生とともに、小学校の中で花まるメソッドを浸透させていくことに尽力中。

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