自分で何かをもっと学びたいと思う子、自分からやりたいことを決められる子は、しあわせです。なぜなら自分の人生を生きられるからです。言われたことはやれるけれど、これをやりたい、という気迫がない子は、いったいどこで自分を見失ったのでしょう。
言われた通りに頑張って、受験は突破したけれど、その後バーンアウトしてしまうのではなく、本当に学ぶことはおもしろいと知り、自分で自分を育てることのできる子を、どのように導けばよいのだろうと真摯に見つめた結果、花まるメソッドという哲学は形作られていきました。
私たちも親も、かかわる大人は皆、子どもたちにとっては「環境」です。子どもたちは私たちのもとで、どんなことを感じているのでしょう。そのことを考えるとき、「じぶんの子ども時代を思い出す」ということは、見えない形でヒントを与えてくれます。わたしたちも、かつては子どもだったから。
親になった私たちは、子どもとの関係において、自分の子ども時代に克服していない問題を、無意識に取り出してしまうことがあります。
感情を抑えるように言われ続けてきた人が、目の前に感情的な子どもがいたら、いらいらしてしまう、ということに気がついた人もいますし、自分の気持ちを正直に言うことを我慢してきた人は、夫婦関係でもそれが反映されているのだな、と思い至った場合もあります。
子どもの問題を考えるために相談に来られた、いろいろなお母さんたちとお話しするなかで、そんなふうに、自分の親との問題を克服されていない、という気づきをされた方が多くいらっしゃいました。
そこから自身のこころと対話し、一個の人間同士として、子どもと向き合うことができたとき、子どものありのままを見つめて観察し、子育ての喜びをも見つめることができる。そんな結論に至りました。
「子どもがどのように私たち親を感じているのか」を考えるはじまりは、「私たちがどのように自分の親を感じてきたのか」ということとつながっています。そこからはじまるのです。
親である自分自身が、どんなときに、どのような気持ちになるのか、に自覚的であること。そして、自分の子ども時代を、そのときの感情や感覚を、ただ静かに思い出してみてください。
誰のものでもない「自分の」人生を生きていく子どもたちの、その芽をつまず、見守ってあげるために。
このコラムでは、家庭とともに伴走していく集団であろうとし続けてきた花まるのメソッドを、家庭の中でも生かしてもらえたらという思いで綴ってきました。来年度も、さまざまな切り口から、幼児期の子育てに役立ててもらえるような内容をお話しできたらと思います。
多くの人が、答えの見えない課題と向き合う2020年度でした。そんな中、子どもたちをともに見守らせていただき、ありがとうございました。どんなときにも、その中から希望を見つめる背中を、子どもたちに見せ続けられたらと思います。来年度もどうぞよろしくお願いします。
井岡 由実(Rin)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。