「えっ、それは…(いいの)!?」
「ちょっと待って、あ…(ダメ)!」
親子で一緒に創作するワークショップでのこと。そばにいる大人たちから思わずもれた言葉です。
「Rinせんせい、これはまちがいですよね」
「あ、ダメじゃない、(先生が)拭いてあげる」
保育園や小学校で出張授業をしていると、子どもたちよりも先に大人たちから、言葉が聞こえてきます。
「こうでなくっちゃ」と考える大人と違って、子どもたちは「ああでもあるし、こうでもある」という視点を自然に持っている存在です。「必ずしも答えはひとつではない」という見方を持っているかどうかは、子どものそばにいる大人にとって、とっても大切な視点です。
「そうだね、それもいいアイディアだね」
「いいね、やってみてごらん?そうしたい、と思ったんでしょう?」
いつものように、子どもたちに答えていく私の言葉を、同じ空間で聞いていた大人の方から、驚きの言葉をたくさんもらいました。
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「隣で子どもが楽しそうに作品を作っているのを見て、思わず「あ!」とか「え?」とか言ってしまいそうになるのに、少し遠くのRinせんせいがそんな短い言葉が出るより早く、「いいね!」「そうだね!」とこころが前向きになるような、あるがままを受け入れる言葉をかけてくださっていて、子どもたちがどんどん前向きになる理由がわかりました。すごく楽しくて、たくさん褒めてもらって、子どもに戻ったような最高の日でした!」母
「やってみると、予測がつかない、何ができるかわからない。こうじゃなきゃいけない、っていうのがなくて。思ったことを口にすると、先生が同調するやりとりが、嬉しくて心地良かったです」母
「こうやらなくっちゃいけない、と思い込んでいたのかもしれません。頭が固くなっていて、思いつきもしないことを子どもがやるのを見て、それは間違いだと思ってしまって」保育士
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「そこで止めれば、きれいに仕上がるのに」というのは大人の感覚です。「きれいな」色、というのは、大人の勝手な価値観を押し付けているに過ぎないのです。
大人は、知識や経験がある分、どうなるかがわかっている。しかし、子どもたちにとっては未知の世界。「こうしたらどうなるのだろう、もっとやってみたい」その結果、作品としてのʻ見た目ʼは、ぐちゃぐちゃに見えるかもしれません。それをみたお母さんたちは、苦笑い。
けれども、よく見てください。子どもたちの表情は満たされて、すっきりしているのです。
こころのままに手を動かし、その瞬間の素直な感情を表現できること。自分がどうしたいのか、何を探求したいのか、何がおもしろいと思うのか、自分に聞けば答えは必ずわかるのだという体験を積み重ねること。
他人の意思ではなく、自分の意思で自分の心を満たす、自分で決める。その経験に大きな価値があるのです。
その環境を守ってあげられているだろうか。私たち大人がその重要性に気づき、彼らを、彼ら自身の人生を歩んでいく一個の表現者であると尊重するために、「自分の価値観を押しつけてはいないだろうか」と、折に触れて自問自答したいなと思うのです。
大人になったときの彼らが自分というものを知り、自分で選択しその生き方に誇りを持って生きていけますように。
井岡 由実(Rin)
🌸著者|井岡由実(RIN)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。
「Atelier for KIDs」は、 小さなアーティストたちのための創作ワークショップです。
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