こころと頭を同時に伸ばす 幼児期の子育て4
暮らしの手帖」という雑誌を興した花森安治さんという方が書いていたことです。
〝お使いに行って、お母さんがお肉を買ったり野菜を買ったりする。
その途中に本屋さんがある。
あっても入りはしないで大急ぎで帰って、早く料理をやらなければ、となっている人と、本屋さんの中にさあーっと入ってみる人。
買ったりはしませんが、とにかくずーっと本の背中だけでも見ている人。
それからたまには手に取って目次くらいはちょっと見る人など、いろいろあるのです。
その本屋さんの前を通っても、なんとも思わずすすすーっと忙しく通ってしまうお母さんと、本屋さんに入って背表紙だけでも見て、あっどんな本があるのかなーと見るお母さん。
もちろん読みもしないし買いもしない。
そういう人であっても、顔つきが違ってくる〞
と、花森さんの文章にはあります。
国語教育の大家、大村はまさんは演出までしたそうです。
〝私は教卓の上にいつも本を広げていて、それを読んでいるときに「先生あのね」と生徒が言ってきたら、「ちょっとちょっと待ってて、ここのところおもしろいから待ってて」と言って読むのです。
そして少しして、 「なあに」という具合です。
そこまでしても、私がすぐ話を受けないでも読みたかった場所がその本の中にはあるというわけです〞。
どちらのエピソードも、私は大好きです。
子どもが読まないことを気にして「読め、読め」ということではなく、生活している中におもしろそうな本があること、愛読者がいることが、最大の効力。
子どもたちは、 大人の、 そういったちょっとしたしぐさや背中を見て、たくさんのものを受け取っているのです。
同じことは、お片付けや、次の行動へ移るときの声かけでもいえるのです。
私がいつも教室で気をつけていること。
それは、子どもに「よーいドン!で片付けしよう」と言った後、必ず自分も一緒に身体を動かしてみせることです。
ほんの少し、数秒でよいのです。机を元通りの場所に戻して見せたり、一緒にごみを拾って見せたり。
それから、手伝ってくれた子にすぐさま「ありがとう」 と声をかけます。
反対に、 「片付けなさい!」とだけ言った後、仁王立ちのまま、「早くしなさい」 「いつまでぐずぐずしているの」とやる人もいるでしょう。
どちらの方が、気持ちよく終えられるでしょうか。
「読め、読め」で人は読みませんし、「やれ、やれ」でやれる子もいません。「言って、5秒だけやってみせる」 。
その背中を見て、子どもたちは学んでいくのです。
だまされたと思って、やってみてくださいね。
井岡由実(Rin)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。