こころと頭を同時に伸ばす 幼児期の子育て10
とってもシンプルなことなのですが、「本当にやりたいことを、やっているか?」という人生における命題は、「あなたがしあわせであるかどうか」と同義です。
「ねばならない」ではなく、「やりたい」ことをして生きていく。
「最も自分らしく生きていくこと」が、自分の望む仕事を生み出していくことにつながります。
人が、その人自身になることを極めていくと、必ず人の役に立つことができるのです。
そのために大切なのが、意欲を育てることです。
「学ぶ意欲」を育てる、とよく言いますが、それはいったいどんなものなのでしょうか。
不思議なこと、わからないことを「おもしろい」と感じること。
「どうなっているのだろう?」と探求する能力。
問題を見つけたら仮説を立て、解決しようとするこころ。
わからないことに出会うと、解決したくなる気持ち。
もともと子どもたちの中に備わっている、「楽しい、おもしろい、知りたい」という気持ちを邪魔せずにいることが、「学ぶ意欲―自ら学び続ける力」を育てることです。
花まるでは、野外体験も、教室での指導もすべて、子どもたちの「意欲を伸ばすこと」にコミットしています。
「みんなが同じであること」を強要されると、人は「違っていること」に過剰反応し、それをまるでダメなことのように見なし始めます。
しかし「違っていることが当たり前で、どの意見も尊く、違いからこそ学ぶことができ、つまり多様性とは豊かさでしかないのだ」ということを私たち大人が見せ続けてあげると、子どもたちはみるみる心が安定し、優しさを取り戻し始めるのです。
以前、少数民族を取材した番組で、狩猟するためにはチームワークが不可欠であり、「みんなが仲良くいられる秘訣は?」と長老に尋ねると「〝みんな違う〟を教え込む」だそうです。
みんな同じが前提だと、違うものを異質に感じてしまう。
目に見えない病や障がいも、「みんな違う」という認識だけでそのとらえ方は変わってきます。
自分を抑え込んで生きる時代は終わりました。
これからは、好きなことをして生きる時代に、社会構造がシフトしています。
夢中になって自分の魂が喜ぶことをし、楽しみながら人の役に立つ生き方を目指す、「好きなことでしか生きていけない」時代が来ているのです。
「みんなと同じ」である必要はなく、人とは違う、自分のユニークさを自覚したうえで、自分らしさを表現してもよいのだということ、自分を大切にする経験は、他人を尊重することにつながるのだということ、人生は有限であり、時間をどうデザインするのかは、自分で決められるのだということ…。
「自分らしく生きていくこと、その生き方を奨励すること」は、特に幼児期の子どもたちと関わる私たち大人が、意識しなければならないことでしょう。
井岡 由実(Rin)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。