【Question】
最近息子が「オレ、絵を描くのが苦手」と言い出しました。詳しく話を聴くと「自分の顔とかうまく描けない」と。おそらく学校で似顔絵やイラストなどを描く機会が多くてほかの子と比べたりしたのかなと思いますが、あんなにのびのび色を塗ったり描いたりしていたのに、いつの間にそういうふうに考えるようになったのかとビックリしました。「楽しく自分が描きたいように描いたらいいんだよ」と伝えてもあまり伝わらないようで悩んでいます。
(2年生男の子のお母さまより)
【Answer】
まずはこのお母さまが、「楽しく描きたいように描いたらいいよ」とわが子に伝えても、“あまり伝わらないな”と感じておられて、そのモヤモヤに立ち止まり、対峙されたことが素敵なことだなと思いました。
のびのびと描くことを楽しめていたのに、いつの間にか絵が、「上手に」「期待されるもの」を描かねばならないものになった。そんなとき、私たちは彼らとどんなふうに対話ができるでしょうか。
彼にとって「描くこと」「創ること」は、これまでずっと、自分が描きたいように描き、主体性と歓喜に満ちたものであったはずなのです。誰かとの比較や、外の誰かが作った他人の基準にうまく合わせることではなかった。そのことを「知って」いたからこその憤りや悲しみ。「何かがおかしい気がする」という魂の叫びを無視できない。これが、彼のいまの状況ではないかなと想像しました。
まず、「なぜか子どもに伝わらないなあ」と感じるときは、子どもの思いをインタビューしてみてください。「あなたは違うと思ったの?」「何がいやだと思った?」「どうしてそう思う?」「それは悔しかったということ?」…など、「あなたのことを知りたいよ、わかりたいよ」と本人の気持ちを大切にしているよ、ということが伝わるのが大事です。
感情に名前がつけられ、整理がつくことで、本当は自分が何を感じていたのかが輪郭を持って現れはじめます。答えはいつも自分のなかにしっかりと眠っていて、そのことを大事にしていい、という気迫さえ伝われば、子どもたちは自分で考える姿勢を身につけはじめます。
彼は他人が作った評価基準で「写真のように正確に描写する」ことや、「他人よりもうまく描くことを良し」とする価値観に直面したのでしょう。その事実を否定するのではなく、そういう考え方もあるんだね、とまずは事実をただ言葉にします。そういう見方が世の中にあっても、それが自分の意見と違っても、それはいいのだ、ということがわかっていれば、外の価値基準に振り回される人にはなりません。
そのためには、自分のなかにある思いや「これがいい」「こうしたい」というその子らしさを、丸ごと大好きだと言ってくれた人が身近にいる、という体感が必要です。それも、言葉によって伝えることができますね。
①まずは本心がどこにあるのかの、確認。しっかり掘り下げて聴く。相手のことを知りたいよ、わかりたいよ、本人の気持ちを大切に。
②「見たまま写真のような絵を上手、正解、としている人がそう言っているんだね」さまざまな価値観の人がいる、ことをフラットに伝える。
③あなた自身が、どれだけわが子の表現や、その子らしさが大好きか、それを言葉にしてちゃんと伝える。
④そのうえで、その子が好きそうな作品があれば紹介したり、「一緒に」楽しんだりする機会を。
彼がきっと好きであろうアーティストをこのお母さまに紹介すると「“Atelier for KIDsのときと同じ輝いた目で”その作品を見ていました!」という報告がありました。
芸術とは、「自分の目で感じ取り、自ら作ることの醍醐味を知り、人生の習慣に良き影響を与えるもの」であるはずです。絵も人生も本当に好きなように描ける。楽しさと喜びと、感謝に満ちながら生きていけるように。アートを通した教育の真髄はそこにあります。これからもみなさんと一緒に、アートと教育の交わるところを考えていければなと思います。
(詳しくはアトリエラジオ♯160でもお聴きいただけます)
井岡 由実(Rin)
🌸著者|井岡由実(RIN)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。
「Atelier for KIDs」は、 小さなアーティストたちのための創作ワークショップです。
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