【高濱コラム】『平和の空を』 2023年12月

【高濱コラム】『平和の空を』 2023年12月

 9月号で書いたら結構な反響があったスーパー算数の同窓会ですが、仕掛け人の開成中のAくんとBくんも、女子学院中学のマドンナEさんも参加して、11月に無事開催されました。男子2人のうちどちらがEさんに好意を持っているのかは聞いていません。2人とも好きなのかもしれないし、片方が恋心を打ち明け、もう片方が『小さな恋のメロディ』のジャック・ワイルドよろしく、友人として仲を取り持つ役回りを演じているのかもしれません。そこは詮索しませんが、2人とも1学期に来たときのむさ苦しい男子校モードではなく、髪も切ったばかりだとわかるし、服は若者ファッション雑誌に掲載されてもおかしくないくらい、キメていました。
 参加は10名。みんな背も伸び、「ラグビーをやっています」「短期留学など英語の学習が大変なのだけれどやりがいを感じています」などなど、選んだ中学で元気に頑張っていることが報告されました。同窓会として何をやったかというと「思考力ゲーム大会」。まずはアルゴ対戦。アルゴクラブ出身者が多いこともあり、フルの4名6枚戦(子どもが3人のテーブルには、私、一色、梅崎の3人が交代で入りました)ですが、ハイレベルの戦いがなされました。適当に流している子は1人もおらず真剣に打ち込み、「ということは、2つに1つの賭けですねー」などと呟きながら、いま目の前で思考が深まっていることも伝わってきました。
 次は弊社で出したばかりの『四字熟語かるた』(永岡書店)を使っての、カルタ対戦。私が裏面に書かれた意味を読み上げて、表面の四字熟語を見て札を取るというものですが、まあこれも国語力に自信のある子も多く盛り上がりました。途中では、お手付きで大笑いあり、男女が1枚の札に同時に触ってしまい照れる(ここは男子が「あ、どうぞ」と譲っていました)場面もありながら進行し、そして優勝はぶっちぎりでEさんでした。
 最後は、年中コースの教具として使用しているアイキューブ大会。この教具の良いところは平面も立体も、簡単な問題から大人にも厳しい難問までどのようにでも自由に設定できるところ。「わーいアイキューブだ!」と喜ぶ子もいましたが、「すべて裏返しで詰め切る競争」などの難問を出したところ、ウンウン唸りながら熱中していました。
 総合優勝もEさんでしたが、みんなが楽しそうなことが一番嬉しいことでした。最後の雑談タイムでは、やりたりないアルゴ対戦をする子、おしゃべりに夢中になる子、LINEの交換をする子など、最後まで和気藹々としたムードで終了しました。「これ、スーパー算数の伝統にすればいいんじゃないですか」という声も上がりました。確かにここで先輩後輩というコミュニティができれば、学校・部活・お稽古事とはまた別の「居場所=他校の友達がいて遊んだり話ができたり、また悩みがあったら相談できる場所」として、健やかな人間形成に寄与するなとも感じました。
 そしていよいよお別れのとき、たまたま仕掛け人の男子2人とEさんが近くにいる瞬間がありました。私はその一瞬を逃さず「そこ3人並んで。写真を撮ろう」と言うと、素直に並んで笑顔ポーズ。撮り終えたとき、左端にいたAくんがEさんには見えないように、体の横で私に親指を立てたグッドサインを送ってくれました。まあ、これからどうなるかは神のみぞ知るですが、同じ教室で学んだ仲間として、いろいろな場面で助け合って仲良くしていければよいなと感じました。私は講演会などで、年中から大学院生まで教えた経験から「どの学年もそれぞれにかわいい」と言いますが、今回も思春期ならではの若葉のかわいらしさを見せてもらい、かかわる教師側としても幸せを感じる一日となりました。

 さて、年末。世界を眺めると、昨日まで日本と同じように平和を享受していた国が国連常任理事国に一方的に攻め入られるという戦争の長期化に顔をしかめていたら、また別の場所で残酷な戦争が始まっています。コンプライアンスだ条約だと理屈をかざしたところでどうにもならない理不尽が、いつ起きてもおかしくないのが世界の「常識」なのだと歴史は教えてくれてもいます。ボーっとしていると国家が無くなることだってあります。
 そんなキナ臭い想像をしてしまう時代に、今回のような同窓会を開いたり、毎日の授業やサマースクールをつつがなく開催できたりすることには、本当に平和のありがたみを痛感します。
 子どもたちが健やかに育つことのできる平和というかけがえのない宝物を守るために、どうあるべきでしょうか。
 私は国と国も大事なことは個人対個人と同じだと思います。「頭が良く、心が強く、魅力的であること」。その力があれば、役割を与えられ存在し続けることができます。小・中学生の不登校が2年連続急増しているという事実は、この国が改革を必要としているという一つの証拠でもあると思います。大自然のなかでの遊び込み、人間関係でもまれること、人を笑わせる経験をすること、一芸などでまわりを惹きつけること、やるべき課題に努力を積み重ねられること等々の経験を子どもたちに提供し続けることを通して、花まるグループは、これまでと同じように変わらず「メシが食える人、モテる人」を目指し、コツコツと日々の教育に専心していきたいと思います。
 良いお年をお迎えください。

花まる学習会代表 高濱正伸


🌸著者|高濱正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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