【62】「いいね!」の言葉の根底に
だんだん日差しが強くなり、額に汗が光る暑い季節になってきましたね。教室では、1年生や新入会の子たちが授業に慣れ、エンジンがかかってきたような印象があります。高学年は、4年生が日々の学習と向き合うことに苦戦しつつも何とかやりきっている様子が見受けられます。
ある日、6年生のTくんが「4年生って本当に大変だよなぁ。」とつぶやきました。なぜそう思うかを聞くと、「宿題の量が一気に増えて、全然終わらないんだよ。オレ、終わらなくて泣いたもん!…今はもう大丈夫だけどね。」と、にかっと笑いながら話していました。
Tくんは3年生の途中で入会し、そのまま高学年へとあがりました。彼は思っていることが表情にそのまま表れるとても素直な子です。3・4年生のときは、考えてもわからないときや何か忘れ物をしたら、唇をギュッと噛みしめ、目には涙をためていました。きっと悔しい想いをしている自分の姿を、他の人には見せたくなかったのでしょう。そんなTくんでしたが、最近は涙を見せることは減り、大きな心の変化がありました。
高学年の思考力教材である、Sなぞぺーの解説をしていたときのことです。4年生のSくんがとてもわかりやすく考えた跡を残していたので、私はそれをみんなの前で紹介しました。他の子が「おお~!」と遠目に見つめる中、Tくんは「先生、近くで見せて!」と言い、教科書を受け取りじっくりと見つめていました。すると、「これいいね!わかりやすい!」とSくんのことを褒めたのです。他にも、宿題で描いてきた国語の映像化の絵をみんなで見せ合うと、「おお!いいね!イメージしやすいよ!」と、他の子へ前向きな発言をするようになるなど、ことあるごとに「いいね!」がTくんの口癖になりました。その姿を見て、Tくんに他の人の考えを素直に受け入れ、称賛する心の余裕ができたのだな、と感じました。自分の心が満たされていると、他の人へ自分の持つ優しさを分け与えられるようになるのです。
Tくんがこのように変わった理由の一つは、『自己肯定感』と『自己効力感』を育めたからだと感じます。『自己肯定感』とは、自分が存在しているだけで良いと、ありのままの自分を受け入れられることです。そして『自己効力感』とは、見たことや考えたことのない問題に直面したときでも、自分ならできそうだと思えることだと定義しています。
Tくんはこの3年間で何度も挫けました。本当はわかるようになりたいのに、なかなか上手くいかない。宿題も自分のペースを作れない。しかし、諦めずに一つずつ向き合いました。Tくんのお母様は「これでいいのでしょうか…。」と不安を抱えつつも、Tくんが帰宅するのを笑顔で迎えていらっしゃったそうです。帰ればいつも通り安心できる家があり、家族がいる。それだけで頑張れる。そのようにして自己肯定感を育み、学びの場として花まるで何度も挫折しては乗り越えて、「自分ならできる」という自己効力感を育んできたのでしょう。
人は困難にあたったとき、自分の本領を発揮します。子どもの間は、周りにどうにかしてくれる大人がいるかもしれませんが、大人になったら自立していく必要があります。そのために、悔しい想いも失敗する経験もたくさん積んで、心を鍛えていってほしいのです。教室では、特に切り替えが上手な低学年時期にたくさん失敗し、高学年になったらその失敗を乗り越えられるという感覚を持てることを目指します。子どもたちの心に「いいね!」と思える余裕を作れるよう、今後もサポートしていきます。