【44】そのときにしか体感できないもの
「うわぁ、黄緑になった!」
年中クラスの思考実験、クレヨンで黒の画用紙に描いているときのことでした。複数のクレヨンを混ぜて変化した瞬間の驚きから出てきた言葉でした。さらに色を上塗りしていくと、「わぁ、きれいな色になった。先生みてみて」と、薄い黄金色に発色をしていました。「全部のクレヨンを使ったんだ!」とニコニコしながら話すKくん。「えぇ、全部使ったんだね!すごく素敵な色になったね!」と伝えると、「すごいでしょ!」と得意げな様子でした。「次はどうするのかな…」とKくんを観察していると、「よし、次は僕が好きな青で一面塗ってみよう!」ともう一枚の黒画用紙を勢いよく塗り始めました。「うぉりゃー」という勢いで、画用紙の端から端まで塗っていきます。「うわぁ!すごい!青い!」と青の割合が増えていることを実感しながら、一面が青になるまでクレヨンを握っていました。「すごい、大空みたいだね!大きな海にも見えるね!」というと、「今、海描いているんだ!」と、教えてくれました。すっかりクレヨンで描くことに夢中になったKくん。授業が終わる頃、黒画用紙は一面カラフルに塗られたものと一面青で塗られたもの、二つの作品が完成していました。夢中になり、時間いっぱいかけて作った超大作。時間を忘れるくらい夢中になれるものを見つけて取り組むことで、自然と集中できる時間が長くなっていくものと思います。Kくんにとっては、クレヨンがそのアイテムのひとつだと、気づけた瞬間でした。
一方、線を引いてクレヨンを楽しむ子もいました。「描けた」と言って、見せてくれたのは、縦、横、斜めに線を引いたものでした。「え、すごい、蜘蛛の巣みたいだね」というと、「うん、蜘蛛の巣描いたよ」と教えてくれました。そこから、どうするのかな…と思っていましたが、「これでできた!」といい、これで1つ目の作品が完成しました。「じゃあ、こっちの黒画用紙にも好きなもの描いていいよ」と渡して様子をみてみます。「できた!」というMくんの作品を見てみると、また同じように蜘蛛の巣が描かれていました。「おぉ、また蜘蛛の巣が描けたね!蜘蛛の巣が好きなんだね!」「すごい、真っ直ぐに線を引けたね」と伝えると、「うふふ」と笑い、さらに線を描き足し始めました。線と線の間にどんどん線が引かれていきます。いつの間にか線がぶつからないように、慎重に線を引く姿もありました。いつしかMくんは蜘蛛の巣を広げることに夢中になっていました。シンプルに線を引いたものと無数に引いたもの。対照的な2つの素敵な作品ができていました。
年中の思考実験は、素材を遊び尽くすことに焦点を当て、子どもの想像の枠を超えるよう、驚きや発見、ワクワクが体感できるように工夫をしています。子どもが躍動する瞬間はありつつも、「この子は、そこまで夢中にならなかったなぁ」「あの子はとことんハマっていたなぁ」ということもあります。
子どもにとって「うわっ」と感動する体験があれば、もっとやってみたいという好奇心が生まれてくるものと思います。ただ、それが、いつどのタイミングなのかは人それぞれにあります。年中では、思考実験を通して、興味関心の幅を広げていきます。心動かされ、もっとやってみよう、調べてみようという気持ちにも繋がっていきます。子どもたちが興味の裾野を広げていけるよう、子どもたちの心動く瞬間を、一緒に共感することを大事にしてまいります。