【42】多くの中の一人になれたら
数年前、私が担当していた教室に通っていたAくんという子の話です。私がAくんを担当していたのは年長から1年生になるまでの数か月間でした。
Aくんは無邪気な男の子でした。花まるの教室に来てすぐに「今日は名前をかっこよく書くんだ!」「僕はね、積み木が得意なんだよ!」と話しかけてきます。当時年長さんだった彼はインターナショナルスクールに通い、水泳を習っていて「どんどん次の級に合格したいんだ」と頑張っていました。同じ年長の男の子ととても仲良くなって楽しそうに花まるに通っていて、ときどき、私に注意されるほどお喋りが好きな子でした。
花まるで一緒に過ごしている中ではあまり目立たなかったのですが、Aくんは生まれつき運動機能に障害がありました。筋肉の発達が遅れるというものです。それを理由に園やスイミングスクールで周りの子からいじめを受けている、とAくんのお母さまから聞いたのは彼が花まるに通い始めてしばらく経った頃でした。スキップがうまくできない、泳ぎがぎこちないなど、動きをばかにされていたのです。
ある日の授業で、思考力問題を解いていました。突然、Aくんが手を止めて、「ぼく、みんなにばかにされるんだ…」と泣き始めました。いつも前向きな彼が顔を真っ赤にして泣きじゃくる様子は今でも忘れられません。
「ばかにされたときにどう反応したらいいのか分からない。やめてとは言っているけれど、みんなはふざけ続けてやめてくれない」と必死に訴えてきました。
この日はテキストの内容そっちのけで、嫌なことを言われたら真顔で「やめてよ!」と言う練習をしました。Aくんは何度も「やめてよ!」と真剣に練習しました。帰りに、自分よりも力の強い弟にテキストを取られそうになり、それまでは笑いながら抵抗していたAくんが何度も「やめてよ!」と真剣に伝えていた姿を覚えています。
しばらく経って、Aくんは習い事の調整のため花まるの教室を移動し、私は担当教室長ではなくなりました。Aくんは小学校に上がってからもいじめに遭い、転校し、仲良しの男の子のいる学校に通うことにしたと聞いていました。
Aくんは現在5年生。Aくんが花まるを辞めて何年も経ちました。ふと、気になってAくんのお母さまにメールを送りました。すぐに返信があり、現在はサッカーが大好きで、サッカーの強い学校に行くために受験勉強に励んでいると教えてくださいました。
「いじめられがちだったAも、今ではサッカーを通してたくさんのお友達ができ、学校に行くことが楽しくなっています。花まるの先生や、真剣に向き合ってくださった方々に導かれての今があると思っています」
サマースクールでは「強くなるために修業がしたい」と滝に打たれる経験のできるコースを選んだAくん。当時は頑張っても頑張ってもすぐに結果が出ることはありませんでした。それでも、折れることなくいつも笑顔でした。何年も経ちましたが、Aくんの成長を知ることができて嬉しくなりました。
人間関係も勉強も、心が折れそうになることは多々あると思います。そこでお子さまを支える多くの中の一人として私もいられれば幸せです。電話でも文章でもかまいません。いつでもお子様のお話をお聞かせください。