2022年度の花まるサマースクール、現場からのレポートをお届けします!
今回は、全体責任者を務めた「アニマル」のレポートです。
上を向いて歩こう
大好きな場所、新潟県の越後湯沢。
田舎と呼べる場所のなかった私にとって、たくさんの発見に出会える場所でした。季節によって表情を変える田んぼが、こんなにも美しいものだと初めて知りました。透き通った川の水が、海よりもプールよりも、本当に冷たくて驚きました。真っ暗ななか音もなくしんしんと雪が降る景色は、完全なる異世界でした。
越後湯沢には、もう20年花まるがお世話になっている宿を取り仕切っている、「おっちゃん」がいます。おっちゃんの一言一言から、多くのことを学びました。先日、越後湯沢へ雪国スクール前の下見に行ったときには、もうチラホラと雪が降りはじめていました。まだ紅葉している山を見上げると、上のほうだけうっすら白くなっていました。ほんのり、雪化粧をしているよう。紅葉と雪が共演する山を見たのは初めて。その美しさに心動かされ、ただボーっと眺めていました。
そんな私の様子を見て、おっちゃんは言いました。
「都会はビルばっかり。こうして山を見上げることもなく、みんなスマホで下向いて歩いてんだろ。下になんか落ちてるか?下でなにか見つけたか?上を向いて歩くって大切だぞ」
確かにその通りだと、ハッとしました。意識して見ようとしなければ、この美しい景色も見落としてしまうところでした。
* * *
約6,000人の子どもたちが参加した今年のサマースクール。私は越後湯沢エリアの責任者を務めました。サマースクールのスピンオフ物語を書いてほしい。そう依頼を受けた私の頭のなかに「伝えたい」と浮かんだのは、越後湯沢の「人」でした。
サマースクール1か月前。秘密基地作りをする森へ下見に行きました。花まるっ子のために特別に貸していただいている場所です。いわゆる、鬱蒼と生い茂る森。私の背丈ほどに草が生えていました。しかし、サマースクール初日には、基地作りに使えそうなものだけが残され、あとはきれいに草が刈られていました。
「わぁー!すごい!この森ぜんぶ使っていいの?!」
その森に到着した子どもたちの、生き生きとした目は忘れられません。
「草で壁を作ったんだ!」
「見て見て!丸太のシーソーだよ!」
自然のなかでのめいっぱいの体験は、見えない作業に支えられています。
サマースクール、ある日の朝6時。川のコンディションを確認するため、子どもたちが起き出す前に車で川に向かいました。川原には、既に軽トラックが停まっていました。見覚えのある軽トラック。川に降りると宿の方が、魚つかみをするいけすを作ってくださっていました。石が流れていけすが壊れないよう、当日朝に作業をしているそうです。以来そこで宿の方と世間話をすることが日課になりました。地元に近づけたようで、嬉しい時間なのでした。
その日の午後の川遊び。宿の方が運転するマイクロバスで、子どもたちと川まで移動しました。夕方のお迎えは、16時に頼んでいました。15時を過ぎた頃、急に冷たい風が吹きました。「そろそろ雨が降ってきそうだな」そう思い、宿の方に迎えを早める連絡をしようと携帯電話を取りました。ポツポツ。これはもう降ってくる。覚悟を決めた私の視線の先に、宿のマイクロバスが見えました。川から子どもたちをあげてバスに乗せた次の瞬間、雨がザーッと降り出しました。夏の夕立。ギリギリセーフで、子どもたちは雨に濡れずに済みました。「宿から見た空が暗くなってきたから、そろそろ降るかな」そう思って、早めに迎えに来てくださったとのことでした。束の間の休息になるかもしれないその時間にも、気にしてくれていることに胸が熱くなりました。
* * *
下見の日、宿の女将さんから「今回はどんな子どもたちが来るのかしらね。ふさぎこんだ気持ちも、子どもたちを見るとスーッと晴れていく。そしてまた頑張ろうと思える。私のほうが子どもたちから元気をもらっているのよ」と言われました。「花まるっ子のおばあちゃん」みたいで、なんだか嬉しくなりました。
あなたたちのことを心から待っている人がいる。
言われなければ気づかないかもしれない。だからこそ言葉にして、大切に子どもたちに伝えたいと思います。
2022年 夏
花まる学習会 アニマル/北澤優太