2022年度の花まるサマースクール、現場からのレポートをお届けします!
今回は、全体責任者を務めた「コメディ」のレポートです。
2022年サマースクールも無事に終了しました。お子さまを送り出していただいた
保護者のみなさまには、改めて感謝申し上げます。
子どもたちが参加するサマースクールは、まさに「挑戦の夏」という言葉が当てはまります。それは「親もとを離れて生活をすること」や「初めて会う人たちのなかに飛び込んでいくこと」、そこで「居場所を作る経験」を積むことなど、挙げれば枚挙に暇がありません。そうした子どもたちの挑戦を後押ししてくださった保護者のみなさまのご協力あってこそ、今年のサマースクールも無事に終えることができました。
子どもたちにとって「いつもいっしょにいる家族」という存在は、離れると思ったときに大切さに気がつくのだと思います。
サマースクール当日の朝、背中に大きなリュックを背負い、身体の前に小さなリュックを抱えている男の子がいました。学年は 1年生くらいでしょうか。サマースクールの受付を待っているようです。目が少し潤んでいます。お母さんはその姿を見て、少し目頭が熱くなっているようでした。「泣くもんか」そんな言葉が彼から聞こえてくるようでした。決して涙はこぼさないその姿は、彼の決意表明にも感じられました。「あぁ、きっとこの子は今日という日を迎えるにあたって、いろいろなことを感じて、そして葛藤してきたのだろうな」と感じました。親もとを離れることへの不安。「一人で参加する」ということは、それくらい不安が大きなものなのだと思います。
バスに乗り込むときがきました。太陽がまぶしく、蝉が鳴く公園に「いってきまーす!」という声があちらこちらから聞こえてきます。担当リーダーとの引継ぎを終えた保護者の方々が次々とお子さまを送り出していました。いよいよ彼の番でした。担当リーダーとお母さんが引き継ぎをしているときにも、彼の表情は強張ったままでした。そして、一通りの引き継ぎを終えて、担当リーダーから「では、ここからお子さまをお預かりします」と告げらました。いよいよそのときが来ました。お母さんも「じゃあ、いってらっしゃい」と彼に伝えるも、彼の表情は変わらず、口を真一文字にして、目にはいっぱいの涙が。先ほどの決意表明の通り、彼は涙を流すことなく、バスに乗り込んでいきました。「本当は寂しいけれど、寂しいとは言わない」「本当は泣きたいけれど、我慢する」彼の小さな背中がとても大きく見えました。
そんな彼を待っていたのは、8人の元気いっぱいな男の子たちでした。異学年の子どもたちが同じ班で生活をともにしていきます。「名前はなんていうの?」「何年生?」「サマースクールに来たのは何回目?」などたくさんの質問をしています。彼もその質問にこたえながら、少しずつ表情が和らいできました。
宿に到着してから、川遊びに行くときにも、ごはんを食べるときにも、お風呂も、寝るときもいっしょに過ごすこの8人の仲間たち。時間が経つにつれて、彼はこの 8人の仲間のことを名前で呼ぶようになっていました。次の日も、彼はその兄弟のような8人と川でオタマジャクシを見つければ大はしゃぎ。そして、草原遊びでは誰の捕まえたバッタが一番大きいのかと、ちょっとしたケンカに。かと思えば、次は全員で鬼ごっこをして笑い合っている姿がありました。みんなで迎える最後の夜。明日はいよいよ帰る日です。電気を消す前に、一人の子が「なんか、俺たち家族みたいだね」とつぶやきました。「こんなにたくさんの兄弟がいたら、お父さんお母さんが大変だろ!」とまた笑い合っている9人の子どもたち。彼もその笑顔の輪のなかにいました。
思えば、彼は出発での涙をためていたとき以来、一度も目に涙を浮かべることはありませんでした。寂しい想いや不安な想いもあったはず。そんな彼の心の隙間を埋めてくれたのは、この8人の兄弟たちでした。
迎えた最終日。宿を出発し、バスはおうちの人たちが待つ解散地へ走り出しました。バスのなかでは、疲れてしまったのか、みんな眠っています。解散地に到着すると、出発のときの表情とは打って変わって、彼は晴れやかな表情をしていました。お母さまもその姿を見て、微笑んでいます。帰りの引き継ぎを終えて、おうちへ帰るときになりました。その班のなかで、一番早く帰るのが彼でした。お母さんに手を引かれ、帰ろうとすると「じゃあな!」「また遊ぼうね!」「また同じコースにしてね!」と8人の兄弟から別れの言葉が。「じゃあね!」と小さな手を大きく振っています。だんだんと小さくなっていく彼は、背中を震わせて、お母さんからハンカチを差し出されていました。
家族と離れたけれど、そこに待っていたのは新しい家族のような存在。寝食をともにして、そして遊び尽くす。ケンカもすることはあるけれど、仲直りをして、また笑って遊び尽くす。寂しい気持ち、不安な気持ちがあっても、その気持ちを受け止めてくれる存在を家族のように思えるのだと思います。サマースクールをはじめ、花まるの野外体験はこうした「新しい家族」に出会う機会でもあります。いつかは大人になって、親もとを離れる子どもたち。その子どもたちが、大人になったときに、出会う人たちの心の温める存在になれるように。それが、メシが食える大人であり、魅力的な大人なのではないでしょうか。そんな温かい存在に触れることができた彼も、きっと誰かの心を温められる大人になるはずです。
さまざまな想いがあって大切なお子さまを送り出していただけること、そしてそんな子どもたちに出会えることへの感謝を忘れずに、引き続きお子さまを大切にお預かりいたします。
2022年 夏
花まる学習会 コメディ/小川 凌太