【T11】楽しい方に舵を切る
年中授業では月に一度、テキストを使わず、“ものそのもの”で遊ぶ特別授業があります。1月の特別授業のテーマは「段ボール」でした。切ってもよし、色を塗ってもよし、テープを使ってもよし。「段ボールだけ」という制限があるからこそ、何ができるかなぁと子どもたちは考え、遊びを生み出しています。うまく切れなかったり、思い通りにいかなかったりすることもありますが、子どもたちは遊びを生み出す天才。どうやったら楽しめるか、私たちから何も言わなくても自ら工夫をしています。
今年度の4月から花まるに通っている年中のJくん。彼は考えること、実験が大好き。やってみよう!と思ったことにはどんどんチャレンジしています。
1月の段ボール特別授業では、教室のみんなで秘密基地を作りました。私たち大人の役目は安全に留意しながら見守ること。そして、子どもたちに問いかけます。「どうやって、基地を作ろうか…ん~これを切って、壁にしてもいいし、こっちは飾りにしてもいいなぁ」そんな話をしていると、早速Jくんが一言。「よし!じゃあ俺は壁を作る!」さっと立ち上がり、文房具コーナーへまっしぐら。ハサミやテープを手に取り、基地作成本部に戻ってきました。それからのJくんはというと、没頭、没頭、没頭。何度も何度もグッと力を込めて硬い段ボールをハサミで切ろうとしています。つい私も胸が熱くなり、心の中で思わず、頑張れ!頑張れ!とエールを送ります。ズバッ!無事に段ボールを切ることができたJくんは、「今度は、しかくも、まるも、さんかくも作りたい!」と言ってまたまた切っていきます。完成したオブジェたちを上手にテープで秘密基地に貼り付け、「立派なのができたね~!」と私も講師も声をかけると、Jくんご満悦です。…と、ここまで絶好調だったJくんですが、突然こんなことを言い始めたのです。「次は星を作りたい!でも…僕にはできないんだよね」ここまでたくさん手を動かしていたJくんを知っているからこそ、耳を疑う言葉でした。「きっとできると思うけどな~。だって、丸や三角も上手にできていたじゃない。」「いや~…できないよ」「今までJを見てきたからわかる。絶対にできる。先生が星を書いてあげるから一緒にやってみようよ!」少し不安げな表情でしたがJくんは小さく頷き、「やってみる」と決心しました。先ほどよりも時間がかかる星型。「ここから切ったらうまく切れそうだね!その後はどこから切ろうか。」とアドバイスし続けました。数分後、いつもの明るいJくんの声が響きます。「ねえ〇〇先生見て!星切れたよ!次はもっと大きいのを作りたい!〇〇先生かいて!」さすがJくん!今度は二倍の大きさの星を書くことにしました。
授業の冒頭から、段ボールを切っているJくんに「そろそろお茶休憩にする?」と声をかけると今度はこんな返事がありました。「いや大丈夫。男は休憩しないんだ。その方がかっこいいんだよ。お父さんも休憩しないんだ。僕のお父さんね、運転中におしっこ我慢するんだよ。男は休憩しないんだ、かっこいいんだ…!!」Jくんなりの強い想いを感じたため、涙(と笑い)を堪えながら見守ることにしました。大きな星型も見事に完成。秘密基地に貼り付け、時間の限り遊び尽くしました。挨拶をして帰ろうとしたとき、今度は悲しげなJくんの声が。「持って帰りたいぃぃ」と大号泣しているのです。それだけ秘密基地に想いが詰まっていたのでしょう。「いいよ」と伝え、小さな身体で大きな秘密基地を持って帰っていきました。家でどんな風に遊んでいるのかなと楽しみにしていた翌週、お母様から話を聞くと「教室から出たら他のものに興味津々で、基地のことは頭になかったようです」と教えていただきました。あんなに泣いていたのに!?と思いながらも、キラキラと輝くものに囲まれるJくんは、よっぽど幸せ者だなぁとも思うのです。
“今”に一生懸命になれるJくんや、子どもたち。これからもたくさん心振れるような経験をしてほしいなと思っています。