【U20】一言と向き合う勇気

12月末に雪国スクールが開催され、私は宿全体を見るリーダーとして参加しました。その時に出会った1年生の無邪気な男の子のAくん。外では思い切りスキーを楽しみ、部屋の中でも「○○しようよ!」と年上の子も巻き込んでおもしろそうなことを思いついては様々な遊びをして過ごしていました。そんなAにも少し気になることが。それはAが負けそうなとき、すぐに逃げ出すことです。班の仲間でゲームをする際、負けるとすぐに「もうやらない!」と言って立ち去ろうとしました。弱い自分、出来ない自分を認めたくない。壁に当たるのを最初から逃げているように見えました。

そんなAが何かにいら立っていることに気が付きました。「もう怒ったぞ!あいつら僕のことばかにしてくるんだ!」どうしたのか訳を聞いてみると、部屋に貼ってあったスキーのチャレンジシート(スキーをより楽しく練習するためのシート)が隣の班の高学年のBにぐちゃぐちゃにされたとのこと。その時私はその現場に居合わせていなかったので、はっきりと何が起きたのかわかっていません。それを班の子が聞くと周りの子も「わかった!一緒に言いに行こう!」と隣の部屋に行きました。ただそこでのAの行動は、隣の班を小馬鹿にして、からかうといったものでした。それを見てBは苛立ちを感じていたようですが、高学年ということもあり、あまり反発せずAが部屋に戻ると「なんなのあいつ?」とあまり相手にはしていませんでした。

Aが相手を小馬鹿にするような時間が定期的に続き、寝る前の時間。部屋を覗くとまさに隣の部屋に文句を言いに行こうするところでした。Aに「待って!」と声をかけ「そうやって文句を言いに行くだけじゃ解決しないんじゃない?」と話をしてみると、「わかった、じゃあちょっとちゃんと話をしたい」となぜチャレンジシートをぐちゃぐちゃにしたのか聞きたいとのことでした。私は隣の部屋に行きAが話をしたいと言っている旨を伝えに行きました。ただずっと小馬鹿にするようなAを見ていたので、Bはどうせ話にならないよと言いたげな様子。渋々と了承し、Aと話す時間が設けられました。

ただ始まってみると、お互いの意見には食い違いがありました。Bは「そっちがぐちゃぐちゃにしたんだろ!」と言っています。それもそのはずでBからこんな話を聞いていました。「AにBの班のチャレンジシートがぐちゃぐちゃにされた!」実はAの話はまったくの勘違い。Aはこれまでは苛立ちを募らせ聞く耳を持たなかったのですが、少し冷静になって事実確認をすると、そこにチャレンジシートがぐちゃぐちゃになったときの現場に居合わせていたリーダーも合流し、実際に何が起こったのかを伝えました。その話を聞いてAは固まってしまいました。頭の中では自分が悪かったと理解しているのでしょう。少しずつAは口を開き、「うーん」「たしかに…でも…」と困った様子。ただ「ごめんね」が言えない。たった四文字の言葉ですが、Aくんにとっては大きな壁だったのです。それもそのはず。「ごめんね」を言うことは、自分が悪かったと認めることになるから。Bには「いったん落ち着いてからでもいい?」と伝え、Bも了承しその場を終えました。ただ、最後までAは謝ることはできませんでした。

しかし、この時間が無意味だったとは思いません。Aは自分のモヤモヤした気持ちを乗り越えようと話をしてみようと踏み出したのです。たとえ勘違いだったとしても向き合ったことに意味があります。自分の苦手なこと、不得意なことと向き合うのは気持ちのいいものではありません。しかし、人生は綺麗ごとばかりではない。嫌なこと、目を背けたいことにも否応なく直面することがあります。それを避け続けることはできますが、自分のやりたいこと、叶えたいことは嫌なこととも向き合い、乗り越えてこそ実現できるものだと思います。その後Aが少しだけスキーを粘り強く、前向きに取り組めるようになったことも、あの時間があったからかもしれません。子どもたちの生きる力を育む場としてやはり、野外体験は特別な環境だと感じました。