「どの作品が好きだと思った?」「どこをそう思った?」そう問いかけるとき、ある反応をする子たちがいます。「大人が求めている答え」を探そうとするあまり、言葉に詰まるのです。そんなとき、どういう姿勢でいれば、子どもたちが次第に自分の言葉で話し始めるようになるでしょうか。
それには「聞く力」が関係しているかもしれないと最近気がつきました。彼らが創作中につぶやくように語った言葉も、「いいこと思いついた!」も、一見全体での流れを遮るかのように思える「質問」も、その場で丁寧に拾い、すくいあげ、話した内容を否定せずに、受け止めることを大切にしていく。
人は、聞いてくれる人がいるからこそ話をすることができ、関心を寄せてくれていると思えば、言葉は自然に生まれてきます。そうです。大人の側の「聞く力」です。つまりそれは、話している相手に、(話の内容を理解すること以上に)最大の関心を寄せるということ。
子どもたちは、ありのままの自分を受け入れてもらえる「安心できる場所」に身を置いてこそ、思考をめぐらせることができます。落ち着いて考えることができるのです。「自分の言葉」が生まれ出す瞬間です。そして彼らは、話を聞いてもらえているかいないか、すぐに見抜きます。
子どもにとっての大人というと、“教える・教えられる”の関係が多いものです。大人って、子どもについ教えたくなってしまう。ですが、誰もが思ったことを言える環境を作り出そうとすると、私は彼らと、対等でフラットな存在でありたいと思うようになりました。
教えるよりも、共感する。どんな発言も「価値があるんだよ」と尊重する姿勢を示す。作者がどういう思いを込めたのか、観賞するときに見る側が何を感じるのか、「誰もがどんな見方をしてもいい」。
「なぜそれが好きだと思うのか」正解も不正解もない質問は、自分を表現することです。その発言を「ジャッジ」されるのではなく、受け入れてもらえる。周りの子どもたちも「いいね」という雰囲気になっていく。次第に作品だけでなく、仲間の人格の「いいところ」を観察し、探す目も養われていく。自分の気持ちをシェアする楽しさや、知る楽しさを感じていく。
鑑賞や観察には、決まった答えがありません。「私」の感じ方・捉え方は、世界に一つしかないのです。「自分がどう感じるのか」を認識すること、そして、感情が動いたものについて誰かに伝えることは、子どもたちの成長にとって欠かせないものです。自分は何を好きなのか、何に違和感を覚えるのかを知ることは、将来進む道を選ぶときにも活きてきますが、それ以上に、自分の感覚が誰かに受け入れられることは、自己肯定感の形成や他者理解につながるのです。
「存在のすべてを受け入れられた」と彼らが感じられたときに、自分の力で変わっていくものなのだ。20年も前、不登校児やその家族と向き合っていたときに感じたことが、私の子どもたちとのかかわり方の根幹を作ったのだといまでは思います。
「一つの正解を効率よく求める」のではなく、納得解・最適解・合意案を見つけ出すための力を身につけなければならないいまの時代では「一つの物事にはいろいろな見方がある」ということを知り、異なる考え方を理解するために対話することも求められます。
世界が激変していくなかで、「私たちはどのように学び、生きていくべきか」という問いに向かい合うこと。それが、ARTを通してできる教育の一つだなと考えています。
家庭でも、聞く側である私たち大人のあり方を少し意識してみると、何か発見があるかもしれません。
井岡 由実(Rin)
🌸著者|井岡由実(RIN)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。
「Atelier for KIDs」は、 小さなアーティストたちのための創作ワークショップです。
>>>ワークショップの詳細・開催情報はこちら