【高濱コラム】『補助線を引ける人に』2018年11月

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30代前半にして、数百億の資産を築いた男性と会いました。

見たところ柔和でおだやかな物腰の普通の青年ですが、実現した業績が突出しています。

彼の自己分析を聞きたくて、数多の人々とあなたと何が違うから成功したと思うか、と尋ねたところ、即座に「補助線の見え方だと思います」と答えました。

これには驚きました。ご存じの通り、「メシが食える大人」を標ぼうする花まる学習会で大切にしている「3つの力(算数脳)」の第一が「見える力」であり、その代表が「補助線が見える力」だったからです。


私は、30年ほど前に、まず中学から大学までの入試分析をする中で、トップ校の図形問題の多くが、公式の暗記などではなく、一本の補助線が浮かぶか浮かばないかで決まるなと、わかっていました。

そして、考えを深めるにつれ、これは入試にとどまらず、人生全般で効いてくる力だと思い至りました。

「相手の言いたいこと」「要点」「本質」「解決策」「アイデア」…。

こういう「見えないもの」がいかにクリアに見えるかこそが、人生の差になっている、と。

実際にその後、単に学歴などではなく「この人すごい!」と言われている人の何がすごいかを分析したところ、ほぼ全員に当てはまりました。

同じように新聞を読んで番組を見ているだけなのに、他の9999人には言えない「その問題の本質」が見えて、言えて、命中している。

この見える力こそが、「本当の頭の良さ」の核心だと信じて、花まるを続けてきました。


そんな経歴の私にとって、「補助線」という彼の言葉は、ストライクすぎて、舞い上がるほどの嬉しさでした。

彼によると、投資する会社の課題や今後の業績の見込み等を判断するときに、「独自の補助線が見えるんです」と言っていました。

「課題設定」「勘所(かんどころ)」という言葉を使っていましたが、まさに見えないけれど大切なものでしょう。


そういえば、その後に、今をときめく若手の「知力の雄」と目されているA氏と会ったときにも、「課題設定力」が話題になりました。

彼曰く、「ダメな人とは、課題設定に失敗しつづけている人だ」とのことでした。

例えば、肥満で生活習慣病になり、仕事にも支障をきたすようになっている人がいたとする。

第一の課題は「健康の回復」であり、それは煎じ詰めれば「睡眠・食事・運動の習慣」であるはずだが、残念な人は、仕事が楽しくないという心の課題に注目したり、変なサプリメントを買わされたり、転職しようとしたり、いちいち外れつづけている、とのことでした。

いささか身もふたもない結論ですが、人間世界を眺めると、確かにと納得する事例だらけです。


さて、親御さんとして大事なのは、クリアで的を射る「課題設定力」を将来持てるように、わが子の「見える力」を伸ばしたいということでしょう。

どうすればよいでしょうか。

順序立てて考えれば、割とシンプルです。


第一に、CPUたる「イメージ力」そのものを鍛えること。

いわゆる「非認知能力」の一つで、幼児期にある程度育ち終わってしまう力だと思っています。

これはいつも書いている通りで、伸ばす秘訣は、「遊びと生活」の中にあります。

特に熱中・没頭して全身を使うことが一番よく、最良のものは「外遊び」ということになります。

「4年生くらいまで走り回って遊び込んだ子は、伸びるよね」とは、尊敬する教育界の先輩から若い頃に言われた言葉です。

今、本当にその通りだなと痛感しています。


また、「経験の振れ幅と総量」。

お手伝いや工作などで、五感への様々な刺激を受けた子、たくさん見て、聞いて、味わって、触って、においをかいだ子は、イメージの貯水タンクが豊かになるでしょう。

この経験総量の中には、喧嘩や辛い思い、克服や仲直りなどの心を揺さぶる経験も含まれます。


第二は、「言葉」。

「家庭の言語能力が、子のあと伸びの最大因子である」と講演でも言ってきました。

テレビや新聞で同じ状況を見ているのに、優れた見識を述べられる人を観察すると、単純に「イメージが豊か」というのではなく、大きな因子として「言葉に厳密」という共通項があることに気づきます。

ある尊敬できる医師は「高濱さんは『世界』ってどういう定義で使っていますか」と聞いてきました。

もうこの一言が、このことを言いつくしています。

一つひとつの単語を厳密に使用する習慣が積み重ねられているので、いつも世界の本質を切り取る言葉が精緻で鋭いのです。

それは「イメージの鋭さ」とでも表現できるでしょう。

何かを説明する語にも、解決策を示す言葉にも、説得力と迫力をもたらすゆえんです。


第三に「知識」。「どこでもPCやタブレットで検索できるから、これからは知識の詰め込みはいらない」というのは、暴論です。

脳の脳たるゆえんである働き、すなわち意味を見出したり想像したりするためには、知識の土台が必要です。

それは豊富であればあるほど、引ける補助線が多様で有力なものになります。

例えば、歴史の知識が豊かであれば、一つの状況に「歴史の補助線」を引いて、例えたり分析したりすることができます。

それは正解のない世界で、感情に流されず、冷静に判断する力を与えるでしょう。


知識はざっくり二種類あり、好きなことの学びを極めて「深い知識」のありようを体感していることも大事ですし、「広い知識」として教養を深めておくことも意義があります。

古今東西の知を伝え、様々な他人の人生の経験を感じさせてくれる読書は、この一点において、絶大な好影響があることがわかります。


つまりは、「よく遊び、たくさん経験し、言葉を大切にし、よく学べ」ということになるでしょうか。

平凡な結論ですが、真実はいつも凡庸な言葉にひそんでいます。

その重みを知ったうえで、子育てをしたいですね。

花まる学習会代表 高濱正伸



付:花まる学習会は、日本ボッチャ協会の、ゴールドパートナーとなりました。これは、長年息子がボッチャに関わるなかで、障がい者も健常者も対等に戦える稀有なゲームだと感じ、もっと広まると良いのにと考えていたからです。2020年の東京パラリンピックに向けて、みんなでボッチャを応援していきましょう。 

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高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、延べ50000人を引率した実績がある。 各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど盛況。なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。

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