【4~9歳】子どもたちが時間を「有効活用」しないワケ

花まる教室長コラム

「和(かず)ちゃん、よもぎだんごつくろうか。」

その言葉に、どれだけ胸をおどらせたことでしょう。

 

おばあちゃん家に行くのは、いつも楽しみでした。祖母との思い出は尽きませんが、とりわけ好きだったのは、春のよもぎだんごづくりです。家の前に広がる田んぼのあぜ道を歩き、よもぎを摘んでいきます。たんぽぽやシロツメクサも一緒にとって、王冠に。家に戻ったら、さっと茹でてすり鉢でつぶします。白玉粉に湯を入れてこね、そこにすりつぶしたよもぎを入れ、ひと混ぜ、ふた混ぜ…ふわぁっと春色が広がる瞬間。

 

よもぎを摘むところからできるというのは、子ども心にとてもうれしいことでした。おいしかったということよりも、その過程を一緒にやってくれたということの喜びと、頼りになる友達のような祖母と一緒にいる時間のうれしさが、記憶として際立っています。

 

花まるの教室でも「明日、おばあちゃん家行くんだ!」 と嬉しそうに話したり、作文に書いたりする子どもの姿があります。なぜ子どもは、おばあちゃん家がそんなに楽しいのでしょうか。私も両親と帰省したときには、一向に飽きることなく近所を遊びまわり、そこでしか会えない友達とままごとをしたり、冒頭のように祖母と料理を作ったりしていました。

 

 

人類学者で現・京大総長の山極寿一(やまぎわじゅいち)さんが、あるインタビューでこう言っています。

「壮年期にあたる人たちは、時間をなるべく効率よく使おうと思う。だけど老年期にある人たちは、時間を効率よく使って大きな目的を達成しようと思っているわけではない。そういう人たちの時間がどこに合うかというと、成長期にある子どもたちとぴったり合うのです。」腑に落ちる話です。祖母は、孫が来たから気を引こうと、よもぎだんごを一緒に作ってくれたわけではありません。「焼き芋しようか」も「コスモス取りに行こうか」も「蛤でおひなさまつくろうか」も、祖母自身の時間の流れの中であったことなのです。母の仕事が忙しい夏休みには、私たちの昼食を作りに家に来てくれていたこともありました。昼ごはんが終わったあとに祖母がよく観ていたのは、時代劇「豊臣秀吉」でした。きっと習慣だったのでしょう。孫の見たい番組などはお構いなし。隣でなんとなく見ていると、私にも次第にその面白さが分かってきたものでした。

 

ともに何かをしようという「目的ありき」で、働きざかりの私たちは生きています。目的を達成しようとして、できるだけ効率よく時間を使い、そこに価値も置かれる。けれども、子どもと老人の間には目的などありません。「一緒に楽しく過ごさなきゃ」とすら思わない。ただそこにいて、自分のやりたいことをして時間を過ごすというだけで生きている、似たもの同士なのです。

 

 

私自身、祖父母が嫌いになったということでは全くなかったのに、中学の半ば頃からはあんなに好きだった「おばあちゃん家」に行くことに気持ちが動かされなくなりま した。休みに家族で帰省してもすぐに帰ってくるようになりました。そう、大人に仲間入りし始めていたのです。社会人になってからはそれまでの自分を見つめ直す余裕も生まれ、季節のイベントごとに皆で集まることも増えましたが、まだその時間が十分とは言えないうちに、祖母はこの世を去りました。

 

残された頑固な祖父を、孫の私たちは、気の向くままに訪れています。こちらとしては、家にこもりがちな祖父を外に連れ出すために「軽いスーツを仕立てに行こうよ」とか「イーストウッドの映画観に行こうよ」とか言ってみたりはしますし、祖父も「そうだな」と返してきたりしますが、そういう目的を持った過ごし方を別に素晴らしいと思っているわけではないのを私たちもわかっています。ただ一緒に買い物をし、料理をして、テレビを観ながら他愛もない会話をする。ただ、同じ時間を過ごすということだけでいい。

 

壮年期にある大人からすれば、子どもたちは時間を持て余しているように見えます。「今やっておけばラクなのに」「なぜ先を見越して動けないんだろう」などと思うこともあるかもしれません。段取りというのは目的があって決まるものですが、彼らは目的を設定することがないから時間を「使おう」とはしない。ただそれだけです。私たちもかつては、そういう時間を生きていましたよね。

 

もう子どもにもどることはできませんが、無目的に祖父を訪ねるたび、普段自分の生きている時間と全く異なる流れに身をゆだねることができます。そして、私たちが意味づけることのできない、幼年期と老年期の人が持つ価値がそこにあることを確信するのです。

竹谷 和(たけたに かず)

竹谷 和(たけたに かず)

教材開発部所属。年中から中学3年生までの幅広い学年に対しての教材開発をはじめ、各種出版にも携わる。子ども一人ひとりにあった指導法をとことん考え抜き、心に響く強い言葉を持っている。主な著書に『子どもの「書く力」は家庭で伸ばせる』(実務教育出版)がある。

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