【高濱コラム】『育て!』2018年4月

2月の中頃、どうした風の吹き回しか、3日連続で卒業生の訪問を受けました。


一人目は、24年前に第二期生として入会してくれたSくん。

一期生だったお姉ちゃんも優しくておとなしくて人柄が良かったのですが、Sくんも無口で強い主張をしない子でした。

人の嫌がることはやらない誠実な人柄と、鬼ごっこ程度のゴニョゴニョ遊びの中での、捕まらない俊敏な動きは覚えています。

そのSくんが、格闘技の「修斗」で世界チャンピオンになったというのです。

私のあとに教室長を引き継いだ樋口が元プロボクサーだった影響というわけでもないでしょうが、小さい頃の寡黙な彼を知っていると、信じられませんでした。


チャンピオンベルトを持って登場した彼は、昔の面影を残しつつも、精悍でオーラをまとっていました。

ためしに腕相撲をしたら、手加減こそしてくれましたが、まったく敵わない強靭さを感じました。

あのおとなしかった彼が、どこで変貌したのかを聞くと、高校の体育学科で体操を専攻し、そこでまず徹底的にアスリートとして鍛えられ、19歳のときに1か月半インドをバックパッカーとして旅したときに、転機が訪れたということでした。

一人きりの放浪。

金が無くなったら、「働かせてくれ」と交渉してお茶摘みのバイトをするような経験の中で、生きる力を手に入れたそうです。

リングでは筋力などフィジカル面での強さはもちろん、戦いの組み立て=戦略がものすごく大切で、お互い苦しい終盤で、「深海に引き込んで息苦しさ勝負に持ち込むようなガマン比べ」に勝てるように、絶対に相手よりきつい練習をするんです、と教えてくれました。

自分の人生ではまったく経験したことのない世界の話は、興味津々で、勉強になりました。


二人目は、大学生のRくん10年以上前に「アルゴクラブ」のパイロット版授業を、私がすべて一人で担当し開発していたときに、参加してくれた3年生の一人です。

問題作成を楽しめる子は伸びるという信念に基づき、「詰めアルゴ」作成を奨励していたのですが、Rくんは提出数が多かったので、ご褒美に私の処女作「小3までに育てたい算数脳」の中に、彼の問題を作品として掲載しました。

スクールFCで勉強して、開成中・高校までは順調でしたが、大学入試で二度失敗。

そのたびに人生相談に来ていましたが、めげるとか自信を無くすということはありませんでした。

むしろその逆境を楽しんでいるふうでもあり、たくましさを増したなと感じていました。


東大文一に進んで、就活のタイミングとなり、また相談に来たのですが、知らない間にすっかり大人の物言い・考え方になっており、大企業にするか、同級生が立ち上げたスタートアップの会社に法務で誘われていて、そちらに行くか迷っているということでした。

何より、東大の中で私がもし入るとしたら、この先生が良いなと思っているA教授のゼミを取っていると聞いたときは、その判断の良さに感心しました。

どう転んでも食っていける目と力をつけたんだなと、成長に目を細めました。


三人目は、大学院生のTくん。

私立の中高一貫校から早稲田の理工に進み、数学を学んでいます。

博士課程に進んで大好きな数学の研究者を目指したい気持ちもあり煩悶したけれど、結局厚労省に決めましたという報告でした。

その決め手は厚労省のことを相談したら、「母が喜んでくれたので」というのが彼らしいなと思いました。


彼は母子家庭の一人っ子。

お父さんの顔も知らないのですが、たくましいお母さんが、女手一つで育て上げたのでした。

花まるに少し在籍してすぐにスクールFCに入塾し、特算・スーパー算数(現在のシグマ算数)・スーパー数学と、すべて私が授業をした一人です。

ちょうどこれを書いているとき、別の高校生の教え子が数学オリンピックの予選で賞を取り、日本代表選びの合宿に参加するというニュースが届いたのですが、そちらは普通に生きるのには苦労するかもというくらいにこだわりの強い天才系だったのですが、Tくんは努力型。

「人と競うより、自分がしっかりわかることしか、ずっと興味がなかったです。自分はコツコツやるのが向いていたので」という言葉に象徴されています。

「特算は遊びみたいなのに、すごく考える時間だった。スーパー算数は難しくて厳しかったけれど、そこが逆に本気の戦いの実感があって、とても充実していた。あの6年生の一年間みたいに、純粋に勉強に打ち込めた時間はなかったです。」

その言葉は弾んでいました。

「算数・数学を大好きになれたおかげで、一発逆転できたと思っています」というので、言葉の意味を聞きました。

すると、母子家庭で生活も心配だったが、数学の成績が良いから早稲田の推薦もとれたし、大隈奨学金はじめ数百万円の奨学金ももらえた。

そして厚労省に数学の技官として入ることもできたし、結果母親を喜ばせることができた、ということでした。


数学の話になると熱く語りだし、現代の注目の数学者とか、私でも読めるお奨めのトポロジーの本などを教えてくれました。

「高木貞治やヒルベルトとか偉大な数学者列伝がいますが、結局はオイラーとガウスに行き着くんですよ。すごいですよねあの二人」と語る、語り口の熱烈さが、可愛かったです。


三者三様の道。

自分で決めて、それぞれの分野で努力することも身につけ、足取り確かに歩いている報告を聞くことは、教育に携わる身として、醍醐味と言ってよいくらいの喜びの時間でした。

三人とも、お母さんはのんびり大らかで、いつも笑顔でした。

彼らを見ていると、種から苗、若木までを懸命に育てて、しばらく間をおいて見たら立派な樹木に成長している姿を見せられたようでした。

こちらは確実に枯れていく年齢。

若木たちよ、どんどん育て!と願わずにいられません。


さて、卒業の季節。巣立っていくみんなへ。

このお兄さんたちは一つの参考ですが、人生は自由です。

成績とか合格とか他者が決める価値観も、ないがしろにせず渡り合うことは大事ですが、最後は自分の人生。

一度きりのこの命を満喫して生きていけるように、方角は自分で決めてください。

そして選んだ世界で活躍できるように、実力をつけてください。

花まるやFCで培った意欲と集中力と考える力に磨きをかけ、たくさん経験し感じ考え、自分の言葉をためてください。

できれば、高校生リーダーや講師として、一緒に働けるととっても嬉しいです。


何かあったら、先生たち全員が味方だよ。いつでも相談に来てください。

卒業おめでとう!



花まる学習会代表 高濱正伸


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高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、延べ50000人を引率した実績がある。 各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど盛況。なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。

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