【高濱コラム】『ジブンゴト』2018年3月


1月の大雪の日のことです。

天王洲アイルでのインタビューが長引いて、ちょっとまずいかなとは思いつつ、北浦和への帰路につきました。

ところがやはり少し出遅れたようで、駅の入場規制、乗り換えの駅で1時間待ち、ようやく乗れたと思ったら隣の駅で停止、別の電車に乗り換え、浦和駅まで何とかたどり着いたと思ったら、ポイント故障で再び1時間以上待ちと、さんざんな目に遭いました。

横殴りの雪のホームで、傘を真横にさして耐える人々の姿が印象的でした。


何とか北浦和の本部に帰り着き、車で帰ろうと思ったら、駐車場にはすでに20センチ以上の雪が降り積もっています。

スタッドレスとはいえ、祈る気持ちでアクセルを踏むと、キュキュという音とともに何とか発進できたのですが、駐車場の出口のちょっとした段差のところで停止。

左後輪が空回り状態になってしまいました。

この時点で深夜零時過ぎ。

会社は真横なので、自分の身の安全だけで言えば何とかなりますが、全員帰宅しているので応援は頼めず、車は動かせない。

困ったなと立ち尽くしているところに、中学生くらいの男の子とお父さんが、親子で大雪記念写真を撮りながら歩いてきました。

事情を言うと、快く「良いですよ!」と応じてくれ、車を前から押したり後ろから押したりしてくれました。

しかしピクリとも動かない。


3人で途方に暮れていると、身長が180センチ以上ある胸板の厚いガッシリとした中年男性が通りかかったので、助けを求めると「わかりました」と加勢してくれました。

外見のたくましさもありますが、穏やかなその物言いにも説得力と頼もしさを感じました。

しばらく前後から押してもらってもダメ。

すると彼は「毛布か何かがあれば行けるんだが…」と一言。

私はすぐに社屋に入って、自分用のひざ掛け毛布を持ってきました。

指の太い手で受け取ると、彼は「ここにこうやって…」とタイヤの下に押し込んでくれました。

ところが、何度やっても結局毛布を巻き込むだけで車体は動きやしません。

その男性が手伝い始めてくれてからでも30分以上はたっていましたし、申し訳ないなと感じていたら、「これはJAFしかないですね」と彼が言いました。


そこで私からお礼を言って、二組はそれぞれの方向に去っていったのですが、ここで考えました。

これからJAFを呼ぶとなると、出動要請が爆発状態の今夜、どう短く見積もっても7・8時間待ちであろう。

朝だ。困ったな、まあ仕方ない、掛けようか、いや待て待て、もう一度集中して考えてみよう…。


静かに降り積もる雪の中、私は考えました。

タオルを巻き込むということはタオルとタイヤはかみ合っているということ。

タオルと雪の接地面が滑るということは…。

そうだ、降りはじめの今なら、雪を何とか削って搔き出して、タオルとアスファルトの地面が接するようにすればよいのではないか…。

シャベルで必死に搔き出すこと10分。

何とか出てきた地面とタイヤの間にタオルを噛ませ、アクセルを踏むと、見事に動き出したのでした。

ある程度踏みしめられた道路は、何とか持ちこたえて帰宅できました。


ここで私がつくづく思ったのは、最初から自力で必死に考えていればよかったということです。

本来自分の頭で考えて対策を講じ、手伝ってもらえる部分を「こうしてほしい」と指示するタイプなのに、大雪の中で心細くなっていたところに、屈強で頼もしげな人物が登場したことで、心が「お任せ」の状態になってしまった。

そのとたんに自分の頭で考えることをやめてしまっていたのでした。


一人の人間の中に起こるこの事実が示すのは、誰もがいつでも考え抜きもするし、思考をやめてもしまうということです。

ちょうどこの夜、私がインタビューした方が「明日は某大企業で社員研修の講演を頼まれていて、大勢の前で話すのだ」というので、テーマを伺うと、「『ジブンゴトとして考える社員になれ』ということです」とおっしゃいました。

自分ごと。

まさにこの夜の私です。


プロノバの岡島悦子さんが、社内で人を育てるためには研修より機会を与えよ、なるだけ若いうちに修羅場を経験させること、「打席に立たせること」が大事なのだと話されていましたが、通じるものがあります。

すべて背負って「自分がやるしかない」となった中での経験こそが、成長をもたらすということでしょうし、きっと大企業病と呼ばれるものの芯に「人に頼って自分の頭を働かせていない」という状態があるのでしょう。


翻って、子育てほどこの視点が大事な場はありません。

長い間多くの子の成長を見守ってきましたが、いつも「○○しなさい!」と親側が指示していた子や、甘やかしすぎで、子どもが困った表情で見上げながら目で訴えると、すぐに察してやってあげる保護者に育てられた子より、自分で決めて、主体的に行動していた子の方が、たくましく育っていると実感しています。

例えばいたずらという「仕掛ける側」の行動が好きだった子は、学習面でもあと伸びしているし、その後の人生を満喫しているなと感じます。

講演でいつも言っている「没頭する何かがある子は、将来強い」というのも、要は「自分がやりたいからやっている」ところに価値があります。


ルソーが「母親としての配慮を怠りはしないが、極端に気をつかう女性」について、「そういう女性は子どもを大事にしすぎて、弱さを感じさせないようにするためにますます弱くする。(中略)弱い子ども時代をいつまでも続けさせて大人になったときに苦労させるのは、どんなに残酷な心づかいであるかを考えないのだ※」と言っています。

転ばぬ先の杖の親心は、痛いほどわかるけれど、長い目で見ると生きる力を弱めてしまいます。

本人が意思してのめり込むことを存分にさせ、その中で「失敗しても見守る」くらいが、ベストの子育てなのでしょう。


かつて子育て名人だなと思ったあるお母さんは、例えば子どもが「中山くんと喧嘩した」と報告すると、「中山くんと喧嘩したんだ。じゃあ、どうする?」と、何事も本人に方針や対策を考えさせることを習慣にしていました。

主体性を育てるという意味で、参考になるのではないでしょうか。


※出典:『エミール』(岩波書店)


花まる学習会代表 高濱正伸


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高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、延べ50000人を引率した実績がある。 各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど盛況。なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。

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