【高濱コラム】『お父さんだからできること』2017年7月

 定点観測。もとは気象用語だそうで、一つの場所から世界を観察し続けるという意味ですが、教室という同じ地点で25年も仕事をしていると、見えてくるものがあります。


 その中の一つが、「お父さんたちが変わってきたな」ということです。例えば講演会。20年前は日曜日に行う父親向けの講演会でも、「妻に言われて仕方なく来た」という風情の仏頂面パパばかりで、感想も「だいたいわかっていることばかりだった」とか「塾の先生なのに、なかなか良いことも言うなと思いました」というように、戦闘モードというか対抗してくる意思を感じました。しかし、イクメンという言葉が流行語になったあたりから変化が見られ、今のお父さんたちの中でも「外で仕事をしていればよいというわけではなさそうだな」というのは共通認識になり、母親向け講演会でも平日の午前中なのに複数のお父さんがいるのが当たり前になってきました。しかも真剣に聞いてくださいますし、感想もまっすぐ伝わる誠意ある言葉で埋められています。


 教室の面談でも、お話しするのは母一人、以前はそれ以外にあり得なかったのですが、いつごろからかたまにお父さんがいらっしゃるようになりました。もちろん受験部門のスクールFCでは昔からありましたが、花まるの面談でも夫婦二人でいらっしゃるというケースが出てきたのです。5月の面談で、あるお父さんから聞いた話がおもしろかったので紹介します。


 それは、パパ友を作ったという話です。既存の親父の会や仕事の同僚などではなく、子どもと遊ぶために行った公園で親しくなったというのです。「公園デビューの難しさ」が話題になったのはもう10年以上も前ですが、そこで「デビュー」するのは母と子と決まっていました。そこに、お父さんも加わるようになったというのです。


 ご自身は娘二人のお父さんなのですが、周りの父が軒並み子どもを遊ばせつつ自分はスマホをいじっているという人ばかりの中で、自分と同じように体を動かして娘さんと一緒に遊んでいる姿を見て、声をかけたそうです。同類の親しみを感じたのでしょう。男性の平均的感覚からすると、よくぞ声をかけるその一歩を踏み出せたなと思います。そのパパ友とはとても親しくしていて、遊ぶ子どもたちを見守りながら二人で話したりビールを飲んだりしているそうです。子育てにおいて、母抜きで父同士もつながれる時代の到来です。良いと思います。男同士だからこそ、また娘を持つ父同士だからこそわかり合えるものがありますし、妻に対する気持ちなども共感できるでしょう。夫の精神安定上も良いし、奥さんの心にも安定をもたらす。それは結果的に、子どもの健やかさにもつながります。


 折も折、『父親ができる最高の子育て(ポプラ社)』という新書を出しました。出版にあたって、622名の方からアンケートを採ったのですが、興味深いデータが出ました。


 父親の役割は、わが子の健やかな成長のために、家族の中心=太陽である母親(共働きだろうがなんだろうが)が笑顔でいられるように最善を尽くすことである。これは、紆余曲折30年に渡って教育について考え行動してきた結論です。そのために、話を聞くのが上手な人はとことん聞けばよい。姉や妹がいた人などに有利な手法です。しかし、たいていの男性はオチの無い焦点の定まらない話を苦痛と感じてしまいがちです。そのために、父親学級では全員でうなずく練習をしたこともあります。まとめるな、結論を言うな、ただうなずけ。お父さんたちは大笑いですが、実際のところ「やってみたら効果がありました」という声も多かったし、自信はありました。今回のデータでも「夫が自分の話をうなずいて聞いていると嬉しい」と答えた人は97%でした。似た問いですが「夫が新聞やテレビを見ながら自分の話を聞いているとイライラする」は62%で、これは「ま、イラっとするけれども仕方ないか」という妻たちの声の表れかもしれませんね。


 私は、「妻の笑顔に貢献するために、わが子と遊びましょう」と主張しているのですが、「夫が子どもと一緒に遊んでいると嬉しい」は99%がイエスでした。また「夫が子どもに勉強を教えていると嬉しい」は89%。どうでしょう、明確な方針が見えますよね。


 おもしろいのは、「夫が自分との記念日を覚えていないとイライラする」がイエスである人はたったの33%であるのに、「夫が子どもの誕生日を覚えていないとイライラする」は70%。つまり、かわいい子どもへの思いを共有できていることが、ママの大切な安心ポイントなのです。偉そうに書いていますが、21年間のわが家の夫婦関係でも妻が最大に炎上したのは、息子の大切な予定を私が忘れてしまったことだったことを、告白しておきます。


 データは続くのですが、私が見逃していた急所が一つ見つかったので、報告します。それは「夫に『ありがとう』と言われると嬉しい」が97%だったことです。これは当たり前すぎて情報化できていませんでした。しかし思えば確かに、講演会の感想にも書いてあったし、面談でもお母さんたちは言っていました。「一言『ありがとう』って言ってくれると、全然違うんですけどね」と。気持ちが一番大切ですが、最も気を許せる家族だからこそ、あえて言葉にする心がけというか習慣が大事なのでしょう。


 これは夫婦というよりも、親子でも会社でもあらゆる人間関係に通じる真理ですよね。お醤油を取ってくれたというような、小さな一つひとつに「ありがとう」をきちんと言う。「ありがとう」がいつも聞こえている。そういう家族でありたいですね。


 さて締め切り日、この文章を書き終わって教室に行くと、あるお母さんから連絡帳にメッセージがありました。それは、小学1年生になる娘のピアノ発表会で、個人での発表と並び、お父さんとの連弾が実現したというものでした。まったく弾けなかったお父さんは、この日のために練習をひたすら積んだそうです。「普段は帰りも遅く、娘と触れ合う時間も少なかったので、二人にとっても有意義な時間を持て、六年間で一番の思い出を作ることができました」と書いてありました。六年間とあったのは、もう次の発表会では娘さんのレベルが上がるので一緒にできないだろうという見通しだそうです。それも笑えますが、何より文面からお母さんの喜びがあふれていて、「良かったなあ。お父さんがんばったなあ」という思いで、私までとても嬉しくなるのでした。    

 

花まる学習会代表 高濱正伸

 

 

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高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

高濱 正伸(たかはま まさのぶ)

花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、延べ50000人を引率した実績がある。 各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど盛況。なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。

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