花まる学習会は、さまざまな教材のなかで子どもたちが 「わかっちゃった体験」を積むことを第一に考えています。
算数が得意になるための「考える力」を育むためには、「考えることって楽しい!」「問題を解くことがおもしろい!」という感覚をもたせることが一番です。「あ、わかっちゃった」とひらめいたときの快感、自ら解ききったときの満足感が、後々、思考力が必要な問題にぶつかったときでも、「よし、解いてやるぞ」という原動力になります。
ある日、教室で耳をすませてみると、子どもたちからこんな声が聞こえてきました。
「なんか、できそう~!」
これは「わかっちゃった」体験の一歩手前の、まだ完全にはひらめいてはいないけれど、なんか見えてきた、できるかもしれないというプロセスが声になったものとも言えます。
この言葉を使うときの子どもたちの目は、どれも輝いています。子どもたちの頭上には「ワクワク」「ワクワク」という漫画のふきだしが見えるような気がします。
きっとゴール、解答までの自分なりの道のりが頭の中に微かに見えてきたときなのでしょう。
それからというもの、私は「わかっちゃった体験」の前にある「なんか、できそう~!」というプロセスに注目するようになりました。すると、言葉には出さなくても子どもたちは心の中でいろいろな葛藤をしていることが見えてきます。「できそう、いやできない」「いけそう、やっぱりだめだ、こっちからやってみよう」など、「わかっちゃった体験」の前の心の声が聞こえるようになってきました。
同じことを、今夏のサマースクールでも感じました。子どもたちが夏らしい入道雲の下で次々に川へ飛び込み、水しぶきがキラキラとあがる光景は、私には子どもたちの楽園に見えます。なにも制限がなく、親の目も離れ、自然の中で心と身体を解放する瞬間は、人という生物としての生命力にあふれています。
しかし、こんなふうに子どもたちが夢中になって飛び込むまでのプロセスには、実は内面の葛藤があることが、最終日の作文から伝わってきました。
「飛びこむ前はすごくどきどきしていました。飛び込んだあとは、心と体がすっきりして、すごく気持ちがよかったです。疲れている間にみた景色はすごくきれいで心がほっとしました」
「飛び込むところに近づくにつれて、どきどきしてきました。そこにいくまでのハラハラがとても楽しかったです。飛び込んだら、スカっとして気持ちよかったです」
「心の中で怖がっている自分に、必死に、楽しみ、ワクワクと言い聞かせた。友達が飛びこんでいくたびに手足が冷たくなり、震えだした。本当に怖かった。でも、友達にはウソをつき『楽しみだ』と言って笑った。飛び込んだ先は、真っ暗な水の中にいた。でも次の瞬間、視界がぱっと開けた。曇っていた空が天国のように晴れていた。とにかく気持ちがよかった」
子どもたちの笑顔の下に揺れ動く内面がよく表れています。現場では、このような言葉は子どもたちの間に一切出てきません。サマースクールという親元を離れた空間で、やせ我慢をしているのです。こうやって子どもたちは、何度も心の声と戦って葛藤し、「できそう、いやできない、でもやってみよう」「やってみた、なんかできそう」を繰り返して成長し、新しい世界を切り拓いていくのでしょう。
花まるは、確かに「わかっちゃった体験」を積む場です。しかし、その結果だけでなく、それに至るプロセス、葛藤、心の声も感じ取れる教室長でありたいと思います。
そしてその経験、積み重ねが何事も「なんか、できそう」「よし、やってやろう」という豊かな人生につながってくると信じ、これからも子どもたちと向き合っていきます。
花まる学習会 渡辺栄治(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。